知らない男たちが突然家に入り、ひきこもり女性を拉致。民間の自立支援センターによる「暴力的支援」の恐怖。「引き出し屋」と呼ばれるその実態とは

「精神病院に入院させる」が脅しのツール


二人目は関東在住の30代の哲二(仮名)さんだ。

2018年5月、突然部屋に入ってきた見知らぬ男らに「この家には住めない」などと告げられ、強引に連れ出された。抵抗すると体を押さえつけられ、玄関前に止められた車に引きずり込まれたという。

実は、同居する両親が、仕事に就いていない哲二さんの将来を案じてセンターに相談、700万円もの費用を支払い、契約していた。

後述するように、哲二さんはその後、地下室で監視されたり、精神病院へ入院させられたりとさんざんな目に遭うのだが、やがて脱走に成功し、林治弁護士らの助けを借りながらしばらくは都内の無料低額宿泊施設などで暮らしていた。

林弁護士を通じて私と知り合った当時は実家に戻っていたが、「またいつセンターに拉致されるか分からない」とおびえていた。実は「哲二」も自分でつけた仮名で、しばらくは本名も住んでいる町の名も明かしてはくれなかった。

連れ出される際に、哲二さんは自宅の前で「こんなのはおかしい」「誰か、助けてください!」と繰り返し大声をあげ、警察が駆け付ける騒動になった。だが臨場した警察官は、「親が契約した支援業者だ」と男らが告げたとたん、訴えにはまったく耳を貸さなくなり、あとは哲二さんがワゴン車に乗せられて連れ去られていくのをただ見ていただけだったという。





しかし、たとえ親が契約したとはいえ、助けを求める男性の体を複数人で押さえつけるのはただごとではない。人の身体の自由を奪うこうした行為について、警察官は違法性を疑わなかったのだろうか。

このときの状況についてセンター側は裁判所に提出した書面のなかで、「(暴れる男性を)保護するための正当な行為だった」「精神病院で医療保護入院の必要性が判断されるまでの保護行為だった」などと主張した。

哲二さんは言う。

「こんな理屈が通ってしまうなら、『錯乱しているから保護した』と言えば誰でも拉致や監禁ができてしまう。何より怖いのは、センターが本当に都内の精神病院で研修生を診察させていることです。診断名が付けられ、薬漬けにされ、下手をすれば本当に病院から外に出られなくなってしまうかもしれない」

センターに入所してからも「私は入所を望んでいない」「すぐに施設の外に出してほしい」などと主張し続けていた哲二さんはその後、本当に足立区内にある精神病院に50日間も入院させられている。ここでも抵抗したため最初の3日間は革製の拘束具をつけられ、オムツまではかされたという。

医師の診察を受ける際はセンターの職員が当然のように同席し、ようやく退院を許された際にはセンターに対し、「実家に帰らない、家族と連絡を取らないこと」「カリキュラムは全参加すること」│などと書かれた誓約書にもサインをさせられたという。裁判所に証拠提出されたその誓約書には「上記ルールを守れない場合は、再度入院する事に同意致します」とも書かれている。

精神病院へ入院させることが言うことを聞かない研修生への戒めのための「懲罰」だったことがうかがえる。

哲二さんがいまも拉致におびえるのは十分に納得がいく話だと思った。

文/高橋淳 写真/shutterstock

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『ブラック支援 狙われるひきこもり』 (角川新書)

高橋 淳 (著)


2023/9/8

¥1,034

256ページ

ISBN: 978-4040824161

子どものためにと1000万円もの大金を払ったのに、息子は命を落とした―

(章立て)
プロローグ
第一章 熊本への旅
第二章 狙われる「ひきこもり」たち
第三章 なぜ頼るのか–孤立する家族
第四章 熱血救済人――持ち上げるメディア
第五章 望まれる支援とは
第六章 思い出
第七章 裁判――それぞれの戦い
終章 タカユキさんはなぜ死んだのか