中国の「一帯一路」とは? 専門用語をわかりやすく解説② 一帯一路の今後は?

米国・日本・豪州は一帯一路に対抗しようと動き始めている

最後に、米国と日本の対応について見ていこう。
米国は、一帯一路の経済圏から地理的にも概念的にも外れているだけでなく、当初から一帯一路構想に対し非常に批判的なスタンスを取り続けている。このことをどう見るか、廣野教授は次のように解説する。

米国と日本、そしてオーストラリアは、一帯一路に対抗していこうという動きを取っています。例えば、G7ではグローバル・インフラ投資パートナーシップが立ち上がっていますし、IPEF(インド太平洋経済枠組み)においてもインフラ投資や脱炭素エネルギーに関して途上国支援を打ち出しています。
こうした米・日・豪の政策決定の前提としてあるのが、『中国は一帯一路を通じて覇権を握ることを目指そうとしている』という認識です。しかし、一帯一路を巡っては言説が先走っている状況で、実証的研究が決定的に不足しています。実証的裏付けもなく『中国は覇権を求めている』と捉えて政策を決定しているのであれば、それはとても危険なことだと私は思っています。
ただ、途上国からすれば、米中二つの大国から異なるプロジェクトが出され、どちらを取るかを選択できるような状態になっています。現地にとってどのようなプロジェクトがいいのか、中国側と米国側の双方が競い合って考えるようになれば、それは良い競争であり、途上国の発展という意味からも良いことだと思います。また、大国それぞれが、自らのアドバンテージを活かしたような相互補完的な関係性を探っていくことも重要だと思います。
一方で、大国間の競争が途上国に悪影響を及ぼすような競争になることは危惧されます。私が途上国に行ってインタビューすると、『両方あるのはいいことだが、巻き込まれたくない』という声を聞きます。イデオロギーよりも、経済発展・社会発展そのものを第一に考えている途上国にとって、『新冷戦』と言われるような状況は迷惑以外の何物でもありません

確かに、近年、「米中摩擦」はさまざまなレベルで言われているが、その中で日本は、米国とは違う「非常に面白い立ち位置にいる」と、廣野教授は語る。

中国が海外投資や途上国援助を考える上で手本にしてきたのが、日本です。その日本は、1980年代頃に国際社会から批判を受け、改善を図ってきたという経験を持ちます。ですから、日本には、中国と共有できる教訓がたくさんあるわけです。そうした実務的な部分に焦点を当て、日中両国が協力して、人権等も重視した形の途上国支援が進んでいくことを期待しています」

一帯一路構想を通して、中国の戦略だけでなく、国際関係の多様な側面が見えてきた。特に廣野教授の解説は、事実を積み重ねた冷静な議論がいかに大切かを教えてくれている。“中国の隣国”である日本としても、ニュートラルな視点で、中国の変化を見ていくことが重要だろう。