中国の「一帯一路」とは? 専門用語をわかりやすく解説② 一帯一路の今後は?

一帯一路とは別に、“SDGsに沿った発展戦略”を打ち出した

中国の「責任ある大国としてのグローバルガバナンスへの貢献」(廣野教授)を考える上で非常に重要になってくるのが、「グローバル開発構想(Global Development Initiative、GDI)」だ。

GDIとは2021年9月に習近平国家主席が提唱した構想で、『グローバルな開発をする上ではSDGsに沿った形の発展戦略が必要であり、中国はSDGsの達成に向けた取り組みを加速させていく』と大々的に謳っています。
一帯一路では大規模な投資、少なくともこれまで契約済みのプロジェクトは継続し、GDIではコミュニティに即した規模の小さい開発を社会的に配慮して行っていくことになると考えられます。一帯一路に対する批判をかわすと同時に、SDGsの推進を進めることで国際的なリーダーシップを担うねらいもあると思います。途上国のコミュニティがそうした小規模プロジェクトを望んでいるのであれば、どんどんやっていけばいいと思います。
予算規模や主管部署を比較するとGDIよりも一帯一路構想の方がずっと重要な位置付けになっていますが、構想の発表からまだ2年程度しか経っておらず、これからGDIがどのように発展していくのか、私を含め中国研究者が注目しています」

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中国が一番に求めているのは、一帯一路周辺地域の「安定」

現下の国際関係を考えるとき、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとガザの軍事衝突の影響を無視することはできない。東欧も、中東も、一帯一路のルートに含まれるような地域だが、軍事紛争は一帯一路構想にどのような影響を及ぼすのだろうか。

「ウクライナやガザに限らず、世界の各地で紛争は起こっています。それらの地域紛争に中国はどう対処していこうとしているのか。一番の出発点として押さえるべきは『中国は一体国際関係に何を求めているのか』という点です。
そもそも、一帯一路は、中国の経済発展をできる限り保持し、経済成長率の低下をソフトランディングさせるところに原点があります。その原点に立って紛争がどう見えるかというと、『紛争が起きれば、これまで造ってきたインフラを使うことすらできなくなる。経済活動にとって大きな打撃だ』ということになります。
そこで中国は、一番に『安定』を求めます。人権や社会課題の改善よりも、国や地域の安定を求めなければ経済活動に支障をきたすという点が非常に重要なのです。中国が紛争を仲裁するかどうか、どの程度ロシアに賛同するのか、そうしたことを考える上で、もちろん国と国の関係も大事ですが、『何をすればその地域が安定化に向かうのか』が根本になると思います。つまり、一帯一路で築きつつあるインフラを守るために、あるいは、中国の経済活動を守るために必要な外交は何かを考えていくことになるでしょう。
走出去(中国企業の海外への進出)政策が始まってからの変遷を見ていると、投資をする際はビジネスそのものだけを考えておけば良いというかつての考え方からはすでに脱却したとみて良いでしょう。中国外交の発展を見ると、投資先現地の政治と中国の経済活動は絶対に切り離しては考えられないということを、中国自身が深く学んできたことがわかります。中国は不干渉政策を外交の基本方針として掲げていますが、紛争が起これば、現地の治安の安定を守るためのある程度の関与は必要だという考え方は、中国の中に定着してきたと思います」