日銀「三度目の正直」で利上げへチャレンジ!金利のある世界がついに到来か

『週刊ダイヤモンド』1月27日号の第1特集は「地銀 メガバンク 信金・信組 残酷格差」です。日本銀行がマイナス金利を解除し、金利のある世界が到来したとき、一体何が起きるのか。日銀や地方銀行、メガバンクなど金融機関への取材を通じ、その真相に迫ります。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

ゼロ金利政策導入から四半世紀

日銀が「2度」敗れた苦闘の歴史

「長きにわたる低インフレ・低成長の流れの転換に向けた動きが見られた1年だった」。

 2024年1月4日、都内で開かれた全国銀行協会の新年の集いに出席した日本銀行の植田和男総裁は、23年をそう振り返った。

 植田総裁は24年について「賃金・物価がバランスよく上昇していくことを期待したい」と述べ、列席した銀行関係者らに対し、企業の前向きな設備投資や研究開発投資を支えるよう呼び掛けた。これに先立つ12月25日の講演では、植田総裁は「賃金・物価が動くようになることは、より大きなプラス効果を経済にもたらす」とも述べている。

「マイナス金利解除への布石として、デフレ脱却を強調しているかのようだ」。年末から年始にかけての一連の植田発言について、メガバンク幹部はそうみる。

 だが、植田総裁は23年夏ごろまでは、「基調的インフレは依然として目標の2%を若干下回っている」との見解を持っていた。日銀が目指す消費者物価指数(生鮮食品を除く)の前年比上昇率2%の安定的な実現について、明らかに慎重な姿勢だった。22年に利上げを開始した米国との金利差が拡大し、円安が進んでいたにもかかわらず、である。

 その慎重姿勢は理解できなくもない。

 1999年にゼロ金利政策が導入されて以来、日銀はゼロ金利解除に2度挑み、いずれも失敗に終わっているからだ。

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マイナス金利解除へ決断の時迫る

2024年に0.25~0.5%の利上げか

 1度目は2000年8月。当時の速水優総裁は年頭記者会見から「ゼロ金利は異常な金利。副産物も膨らんできている」と発言し、ゼロ金利解除への意欲を隠さなかった。実際に解除に踏み切ったが、米国のITバブル崩壊で世界経済に不穏な空気が漂い始め、翌01年3月には初の量的緩和に追い込まれた。

 2度目は福井俊彦総裁時代の06年7月。翌07年にかけて日銀は2度の利上げを実施したが、やはり米国発のリーマンショックで頓挫した。その後、日銀は白川方明総裁時代の10年に実質ゼロ金利政策を復活。そして2%の物価上昇目標を公約に掲げた黒田東彦前総裁が、マイナス金利政策を導入したのが16年1月のことだ。

「過去2回と今回では、明らかに様相が異なる」。そう断言するのは、日銀で金融政策担当理事などを歴任した、門間一夫・みずほリサーチ&テクノロジーズ・エグゼクティブエコノミストだ。

 過去と現在の最大の違いは、物価と賃金の上昇にある。23年10月、日銀は24年度の消費者物価指数見通しについて、7月時点の1.9%から2.8%へ大幅に上方修正した。悲願だった2%超えの達成である。

 前述の通り物価見通しに慎重だった植田総裁は昨秋以降、「見通しに誤りがあったことは認めざるを得ない」との発言が増えた。無論、その主因は原油など商品市況の上昇や円安の進行にある。金利が上げ止まったままの米国と、下げ止まったままの日本の間で、金利差は依然大きい。

 そしてもう一つの重要ポイントが、賃金だ。23年の春闘で賃上げ率は前年比3.6%の上昇を記録し、30年ぶりの高水準となった。その上昇が24年春闘も持続するかを見極め、日銀はマイナス金利解除を決断するとみられる。

 円安や物価高が進んだ今、世間ではマイナス金利付き量的・質的金融緩和への批判も多い。門間氏は「緩和し過ぎることに対する批判は過去30年間で一度もなかった。日銀は今、かつて経験したことのない局面にある」と指摘する。

 門間氏が言う通り、2000年当時、ゼロ金利解除に対する批判は多かった。実は植田総裁も、当時は日銀審議委員として解除に反対した一人だ。

 ゼロ金利政策が導入されて以来の四半世紀、日銀は金融正常化に挑み、いずれも敗れる苦闘の歴史を歩んだ。24年、「三度目の正直」で日銀はマイナス金利の解除、そして利上げにより「金利のある世界」を復活させることができるのか。その環境は整いつつあるように見える。

 門間氏は、24年4月の金融政策決定会合で日銀がマイナス金利を解除し、0.25~0.5%程度の利上げも年内にあり得ると予測する。「企業の収益が好調で賃上げの原資は多い。賃上げ率が23年を上回る可能性は十分ある」(門間氏)。

 だがそもそも、金利のある世界は、われわれに何をもたらすのか。この四半世紀の間、ほぼゼロ金利だった世界が転換するとき、一体何が起きるのか。