NTT法巡り通信3社と泥沼対立!米GAFAM対抗「グループ大結集」構想の試練

『週刊ダイヤモンド』1月20日号の第1特集は「デジタル貧国の覇者 NTT帝国の野望」です。かつて時価総額世界一を誇ったNTTは、復権を掛けたグループ再編の真最中。そこに突如浮上したのが、およそ40年前に制定されたNTT法の廃止論です。NTTは「昭和の呪縛」から脱却する千載一遇のチャンスを掴もうとしている一方で、競合のKDDI、ソフトバンク、楽天グループは激しく反発しています。業界で完全孤立するNTTは、通信領域に侵攻する米GAFAMに対抗できるビジネスモデルを打ち立てて復活を果たすことはできるのでしょうか。独自ダネ満載の最新記事をお届けします。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

NTT vs 競合3社の泥沼対立!

「NTT法廃止」の奇襲で業界は大混乱

 2025年をめどに必要な措置を講じ次第、NTT法を廃止する――。23年12月5日、自民党がまとめた提言で通信業界に激震が走っている。

 1985年の旧日本電信電話公社(電電公社)の民営化に合わせて制定されたNTT法とは何か。政府が3分の1以上の株式を保有する義務や外国人就任が禁止されている他、研究成果の普及促進と日本全国にあまねく電話を普及させるという「2つの責務」や、取締役の選任に総務省の認可が必要になるなど、長くNTTの経営を縛る「足かせ」(幹部)になっていた。

 NTTにとって自民党の提言は千載一遇のチャンスである。だが、KDDI、ソフトバンク、楽天グループの携帯電話会社楽天モバイルの競合3社は「NTT法廃止」に反対だ。全国のケーブルテレビ会社など総勢181社で結束して徹底抗戦の姿勢を鮮明にしており、日本の通信業界は「NTTとそれ以外」に完全に分断された。

 今後のNTT廃止論をめぐる攻防は、総務省の情報通信審議会(総務相の諮問機関)の通信政策特別会合(有識者会議)の場で本格化する見通しだ。

 すでに12月22日の有識者会議が示した第一次報告書案では、速やかに実施すべき事項として、研究成果の開示義務の撤廃と外国人役員規制の緩和を盛り込んだ。

 今後、「電話」を対象にしたユニバーサルサービスをブロードバンド時代に対応させる議論のほか、NTT東西の業務範囲や外資規制なども対象に激しい議論が続くことになる。

 折しもNTTは大規模なグループ改革を推進中だ。

 NTT会長の澤田純氏は18年に社長に就任すると、禁断の組織再編に次々と着手。海外事業を統合する新会社の設立、不動産事業・電力事業の再編に続き、20年にはNTTドコモの完全子会社化を完了させた。

 澤田氏が乗り出した改革は、22年に社長に就任した島田氏が引き継いで、NTTデータ(現NTTデータグループ)の下で海外事業の再編・統合を強力に進行中だ。そうした改革の中で、突如浮上したNTT法の廃止論だった。

 実は、NTT法廃止を仕掛けた自民党の狙いは、国の資産を継承し、かつて時価総額世界一を誇ったNTTの復権だ。

 NTTはとうの昔に世界の時価総額ランキング上位をGAFAMと呼ばれる米巨大IT企業に明け渡している。その上、GAFAMが通信領域に続々と参入してNTTの牙城に侵攻している状態だ。

 米中対立が激化して地政学リスクが高まる中、NTTが巻き返しの一手として打ち出しているのが、次世代通信基盤「IOWN」である。電子技術に比べて小エネルギーの光技術を活用し、通信や電子デバイスの世界で「ゲームチェンジ」を起こそうとしている。

 もっともNTTのグローバル展開はデータセンター事業で頭角を現している程度で、まだまだ存在感は薄い。

 NTTは、グループ再編を貫徹するとともに、NTT法廃止の騒動で泥仕合を繰り広げる「通信ムラ」から脱却して、世界で戦えるビジネスモデルを生み出せるかという瀬戸際に立っている。