事業再生プロジェクトを始めるために必要な3つのポイント


metamorworks/istock

 不振企業に入り込むときに必要なものは3つある。

 ひとつは、明確な成長戦略のコンセプトだ。

 経営のセオリーにしっかり裏打ちされた原理原則が後ろのあることが大事だ。小手先だけのテクニック、狭い範囲の経験談など役に立たないだろう。再生が進むにつれ、プロジェクトは紆余曲折し、不信感と倦怠感から進むべき方向性に疑問を呈する声があちこちから聞こえてくる。そんな時、誰も否定できない筋が一本通った明確なコンセプトが必要なのだ。「1年以内に、XXX社と取引を開始する」など、できれば期限を設ける。目標は具体的であればあるほどよい。

  2つめが適切な組織、体制の構築である。

 従来の組織の延長で再生プランを手がけても、うまくいかないことが多い。こうなるまで放っておいたのは既存の組織だ。その組織が心を入れ替え、明日から全く違うやり方をするというのは考えにくい。志の高い若手社員が組織の論理に埋もれていたり、部署同士の政治ゲームに巻き込まれたりと、不振企業の「不振の原因は組織にある」ことが多い。「戦える組織」を作るため、徹底して現場のヒアリングを繰り返し、既存組織のヒエラルキーに当てはまらない抜擢人事を行うことになる。必要とあれば外部から専門家をつれてきて実務補完を行って組織を作り上げる。ここは、できるだけ外部の目をいれ、客観性を担保したいところだ。

  最後に、「絶対に再生できるという信念」だ。とくに、改革の先導者たる者、毎日のように現場を鼓舞し、常に明るい将来を語らなければならない。再生現場では、改革が遅々として進まず株主や社員などから責任追及されることもあるし、鉄砲玉は味方から飛んでくることも日常茶飯事だ。また、極限状態に陥った人は、失敗した場合は自分の進退さえ頭によぎることがある。そうなれば、誰でも保身に走り、エクスキューズ(弁明)を他責に求めるのは心情だ。こうした心に打ち勝つためには、誰よりもその事業を愛し、その事業が必ず復活できるという信念が必要になるというわけだ。

 


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「クイックヒット」を数多く打て!


クイックヒットをできるだけはやくに出すことが大事だ(Delmaine Donson/istock)

 再生が始まった組織では、度重なるリストラと「土足で上がりこんでくる外部の人間」に、不安と疲弊が入り混じった状態になっている。彼らにとって真っ先に必要なのは「短期で出せる成果」による「成功体験」だ。我々は、こうした「短期に出せる成果」のことを、「クイックヒット」と呼んでいる。

 クイックヒットは必ずしも経営課題と直結していなくてもよい。成果の大きさよりもスピードのほうが大事だ。我々の経験から言えば「最初のクイックヒットは1カ月以内に打て」である。

「成長は成果を生み出す」というが、現実は逆で、「成果が成長を生み出す」というのが我々の実感である。とにかく小さな成果を組織で共有し、挙げた成果を全員で喜ぶ雰囲気を作り上げる。こうした「小さな成果」の積み上げによって、組織の戦闘能力はどんどんあがってゆく。

 復活の秘訣、「ABC」の徹底とは?

 再生事業を復活させることができる秘訣を一言でいえ、といわれれば、我々は「ABC」と答えることにしている。

 ABCというのは、「A=あたりまえのこと」を「B=ばかにせず」、「C=ちゃんとする」の頭文字をとったものだ。業績不振企業に入り込むと、我々のような外部スタッフに、一振りしたらすべてが変わる「魔法の杖」を期待している人が多いことに驚く。しかし、我々が手伝えることは、経営と実務のPDCA (Plan Do Check Action)をひたすら実直にまわすことだけだ。こんな当たり前のことができていない、また、我々から言わせればやり方が甘いのが現実だ。「改革のレバー」(ここを引けば改革が進む)は、ABCプロセスの中にあることが多い。

 たとえば、大した調査もせずに海外の市場は駄目だという。私が「そんなことはない」といっても、聞く耳を持たない。二言目にはネガティブな意見を言ってお茶を濁す。そんなときは、「なら、一緒に調べに行きましょう」と海外に同行する。現場に出て、現実に海外の顧客と交渉をする。もちろん、うまくいくこともあるし、失敗することもある。しかし、不振企業の組織では、こうした「即実行」というアクションがとられず、企画に対しての検証が放置されていることが多い。「海外出張は金がかかる」とか「この大事なときに旅行か」などと嫌味を言われ、つぶされてしまうのが落ちだ。また、なぜか日本人的発想というか、海外出張に行けば、必ず成果をあげてこなければならないという恐怖感から出不精になる、また、こういうやり取りが面倒くさいから海外に行くのをためらってしまう。こんな理由で、社内に評論家が増えてゆくのである。