円高になりにくい構造要因

円需給に見られる構造変化

円の需給を考えるうえでは、経常収支が重要だ。経常収支は、海外との財・サービスの貿易、配当・利子の受け払いなどを記録したものである。日本は、2023年に20兆円を超える経常黒字を生み出しており、一見すると需給の面からは円高圧力がかかりやすいように映る。

しかし、日本の経常黒字は必ずしも「円買い」につながっていない。経常黒字の大半は、海外からの配当・利子の受け取り(1次所得収支)であり、これらの大部分は再投資に回り、円転されていない可能性が高い(図4参照)。他方、貿易・サービス収支の赤字は増加基調となっている。これらは、所得収支とは異なり、必要な財・サービスの購入のために「円売り」を伴う可能性が高い。

つまり、経常収支の構成変化に伴って、円需給は以前よりも悪化したと見られる。ここで、再投資について一定の仮定を置いて計算を行うと、円の需給は2022年以降大きく崩れ、円売り超に傾いたことが示唆される(図1参照)。同じく、円需給が崩れた2013-15年にかけては、大幅な円安が進んだ。

為替市場での取引規模は、投機勢の方がこうした実需勢よりもはるかに大きい。したがって、金利差などを背景に動く投機勢が短期的な為替の方向性を決めやすい。しかし、投機勢は将来のどこかの時点でポジションを閉じるため、やや長めの時間軸で見た場合、需給への影響は中立的になる。他方、こうした実需から生まれる取引は、反対売買が行われる可能性が低く、為替レートへの影響が残存しやすい。2010年代のはじめまでは、金利差に動きがなければ円高になりやすかったが、2022年以降は金利差に動きがなければ円安になりやすくなった。

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(提供元:野村アセットマネジメント)