ファミリーマートは7月7日、本社で開催したデジタル戦略説明会で、細見研介社長が、「デジタルメディア事業で、5年後、税引後利益で100億円を目指す」計画を発表した。その事業計画の中核を担うのが、カスタマーリンクプラットフォーム構想だ。常に顧客とつながり続ける仕組みを持つことで、より顧客に寄り添った商品やサービスの提供を目指す独自の戦略となる。今回、デジタル事業部長を務める国立冬樹氏に、店舗・FamilyMartVision・「ファミペイ」アプリを連携させ店舗をカスタマーリンクプラットフォームに変える、デジタル事業の最前線を聞いた。

自社経済圏の戦いに備え「ファミペイ」アプリ始動

――「ファミペイ」アプリを開発した経緯を教えてください。

国立 「ファミペイ」を開発した最大の理由は、自社で顧客IDデータを取得しないと今後、小売業として競争上不利になる環境があるからです。ファミリーマートでは、これまでポイントカード「Tカード」を顧客IDとして提示してもらっていました。一方で、他社のIDに依存していると、お客様に対して、「何か販促をしたい、広告を打ちたい、新しいサービスを提供したい、デジタルのサービスを提供したい」ということが自社でできません。

「何々経済圏」というように、顧客IDを軸として、さまざまなサービスを提供したり、ECサイトで買い物をしてもらう動きが加速しています。自社のデジタル基盤の上に、エコシステムのように、いろんなサービスを組み立てて、自社内にファミマ経済圏を作るのが、元々の大構想です。自社で顧客IDを持たないと、お客様とつながる双方向のコミュニケーションチャネルが持てないのです。

――「ファミペイ」が決済機能を持つメリットは何ですか?

国立 「ファミペイ」に決済機能があることで、大きく2つのメリットがあります。コード決済「FamiPay」にお金をチャージしてもらうと、例えば、お客様から見ると「いま5000円チャージしているから、ファミマで買い物しよう」というロイヤルティーにつながります。つまり、これは未来の買い物を促進する効果があります。チャージしてもらうことで、ファミリーマートに対するロイヤルティーが確実に向上します。もう一つは、現在、クレジットカードや電子マネーといったキャッシュレス決済が拡大しており、他社の仕組みで決済すると決済手数料がかかります。一方で、自社決済機能があれば、自社決済分の手数料コストを低減させることができます。

――「ファミペイ」の特徴を教えてください。

国立 「ファミペイ一発」というコンセプトが、分かりやすい特徴です。いまポイントカードやアプリは乱立しています。レジでポイントカードを出し、別で決済アプリを立ち上げると手間がかかります。一方で、ファミペイは、クーポンも、ポイントカードも、決済も、ワンバーコードを提示するだけで、全て完結します。コンビニでは、決済のとき、焦ったり、急いでいるお客様もいます。「決済は、早く終わって欲しい」というニーズは、確実にあります。クーポンも決済も自社で行っているから、ワンバーコードで完結する仕組みが構築できたのです。

<「ファミペイ」アプリ>


――顧客IDを持つことで、どんな経済圏を確立したいのですか?

国立 アマゾンなどのEC事業者の存在感が大きくなっている中、我々小売業も単にモノを売るだけのビジネスモデルでは太刀打ちできない世の中になりつつあります。アメリカでは、ウォルマートがデジタルを活用し、新規事業や自社経済圏を作ってAmazonなどに対抗しています。リアル店舗だけで、デジタルを基点とした自社経済圏がないと、単なる販売チャネルの一つになってしまいます。将来的には、ファミリーマートとしてもEC事業を拡大したいと考えています。

一方で、消費者との接点が一番強いのはリアル店舗です。デジタル勢力はネットから攻めてくるのに対して、我々は、リアル店舗のデータと接点を活用すれば、同じような経済圏を築けると思います。我々は、共通決済事業者、共通ポイント事業者を目指していません。自社内での買い物は、しっかりと自社の経済圏を作って行かないと、他社の経済圏に飲み込まれます。リアル店舗だけでなく、自社アプリの顧客IDがあることで、店舗の外でもお客様とつながり、良い体験やサービスを提供できるのです。

――ECの取り組みについて教えてください。

国立 まさに、試行錯誤をしている最中です。現在は、恵方巻、うな重、クリスマスケーキなどの季節商品やキャラクターグッズなどの予約販売をファミペイWEB予約というサービスで展開しています。ネットで注文して、店舗で受け取る仕組みはできています。デリバリーは、まだ実験段階です。現状では、店舗起点の仕組みを重視しているので、店頭で商品を受け取ってもらうのがECの基本スタイルです。

予約販売は、店舗から見ると、余分な在庫を持たなくて良いメリットがあり、お客様から見ると、確実に欲しい商品が手に入るメリットもあります。加盟店さんから見ると、売れるかどうか分からないのに先に仕入れるのは、リスクが大きいです。加盟店の販売力を最大限に活用できるフランチャイズの仕組みをうまく踏襲しながら、リアル店舗の顧客接点をもつ小売業ならではのECを作るのが、われわれの目標です。

中期経営計画では、自社ペイメントなどを活用した「金融」、「ファミペイ」と、デジタルサイネージ設置による「広告・メディア」、店舗を中心とした「デジタルコマース」の3つを次の成長エンジンに位置付けています。「ファミペイ」WEB予約は、現在、イベント的な中食、キャラクターグッズなどが中心ですが、もっと広い商品ラインアップに広げて行きたいと思います。

<FamilyMartVision>


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デジタルサイネージ実証実験で「3面ディスプレイ」開発

――大型デジタルサイネージ「FamilyMartVision」の開発経緯を教えてください。

国立 デジタルサイネージは、いきなり出てきたものでなくて、ファミリーマートももう10年以上前からずっと実験を繰り返しています。アメリカでは、5年以上前から小売事業者が店舗のメディア化への取組を強化し、リテールメディア市場が立ち上がり、広告予算が、少しずつリテールメディアへシフトする動きが加速し始めていました。

全国のファミリーマート店舗には、1日当たり約1500万人ものお客様が来店されます。実は、1500万人という数字は、在京キー局と同じくらいのリーチ数です。いままで店舗は、単にモノを売る場でしたが、考え方によっては、毎日多くの視聴者が来て、視聴率があるとも言えます。これをメディア化すると、次のマネタイズにもなります。また、お客様により良い情報をよりリッチな形で伝えられることで、店舗に来ることが楽しくなり、買い物体験を良くすることにつながります。

――いまは、お客さんもインターネットなどさまざまなメディアに接していますね。

国立 メディアの変化を見ると、テレビを含めたマスメディアの力の変化があります。デジタルメディアが強くなり、デジタルメディアの消費時間が、どんどん増えています。これまでは、YouTubeなどのデジタルメディアの広告市場はあまり大きくなく、4大マスメディアが広告の受け皿でした。いまはデジタル広告の市場が大きく拡大し、特に若年層へのリーチでは欠かせない媒体となるなど、メディアも時代と共に変化してきています。

そのデジタルメディアもクッキー規制などの市場の変化もあり、従来のマスメディアに加えて、新たな価値をもったメディアが求められています。もし、コンビニという全国にある店舗がメディア化し、そこが消費者へのリーチ拠点になれば、テレビやYouTubeなどの既存メディアと組み合わせて、利用されるメディアになるのではないかという仮説で実験を始めました。

――これまで、どんな実証実験をしたのですか?

国立 実験当初は、店舗入口やレジ上のほか、リーチインショーケースの上など、さまざまな場所で、様々な大きさのディスプレイを設置し、検証しました。イートインスペースに、小さなタブレット端末を置いたこともあります。約1年をかけて、100店舗にデジタルサイネージを設置し、様々な視認率調査をしたところ、一番視認率が良いのが、レジ待ちをしている時に見るレジ上だと分かりました。

さらに、デジタルサイネージのディスプレイも1画面、2画面、3画面と何パターンか実験しました。やはり、圧倒的に視認率とインパクトが大きいのが3画面です。まず、視界にディスプレイが入ったときに、ウルトラワイドで3画面といった異形のディスプレイで視界を埋めて、視覚上違和感を与えないと注目されないことも分かりました。この結果、デジタルサイネージは3画面を連結させることにしました。メディアとしての認知がされていない中で、「これは何だろう」、「こんなメディアがあるんだ」と視線を向けてもらうためには、違和感を作って、驚いて見てもらわなきゃいけない。

――デジタルサイネージに流すコンテンツには、どんな苦労があったのですか?

国立 まず、動画にするのか、静止画にするのかという点や、30秒なのか、1分なのかといった問題がありました。例えば、2分の動画を作ると、全部を見てくれればいいですが、途中から見ると、一体、何の情報・CMなのかが分からない。コンビニの平均滞在時間は、大体5分くらいです。店舗での5分くらいの滞在時間のうち、5秒~10秒しか見なくてもいま何の商品のCMをやっているのか、伝える必要がありました。

そこで、商品のイメージ動画を放映する時に、例えば、1つのディスプレイには、静止画でこれは、こういった商品ですと写真や文字で伝えます。残りの2つのディスプレイで、実際に清涼飲料などを飲んでいるシズル感のあるイメージ動画を流して、商品情報とイメージの2つのメッセージを伝えています。実験を繰り返して、2つのメッセージを同時に視聴してもらうことで、広告の認知率が圧倒的に高くなることが分かりました。1画面じゃなくて、3画面の表現力があると、認知率が1画面のディスプレイとは、倍くらい違ったのです。