秋田県横手市で運営する旅館「ビジネス旅館ますだ」をこの度、「ハートライン株式会社」に事業譲渡されました。ビジネス旅館ますだの元オーナーである鈴木正則様は、長年勤めてきた会社を定年退職後に知り合い縁故に本旅館を引き継ぎ、数年前から経営を開始。順調で利益も出ていたそうですが、ご自身が体調を崩されたことをきっかけに譲渡を考え始め、今回のM&Aが実現しました。

約6ヶ月間の交渉の末に譲渡を決めた先は、同じく横手市で事業を営むハートライン。決断までの経緯や想いなど、鈴木様に詳しくお伺いしました。

 

譲渡企業
社名 ビジネス旅館ますだ
業種 旅行業・宿泊施設
拠点 秋田県
譲渡理由 後継者不在

 



 

譲受企業
社名 ハートライン株式会社
業種 サービス業
拠点 秋田県
譲受理由 新規事業参入

 

 

定年退職後に単身で福島から秋田へ移住。オーナーの道へ

福島県で生まれ育った鈴木様は、同地域で宿泊業を営む会社に就職。60歳になり定年退職を迎えたタイミングで、知り合いを通じてビジネス旅館ますだの売却について耳にしたそうです。ちょうど退職をして時間があったこと長年宿泊業に携わってきて旅館経営に興味があったことから、ビジネス旅館ますだを譲り受けることに決めました。

「旅館は秋田県にあるので、妻と子供を残して秋田に移住しました。60歳になるまでずっと福島で生活してきたので不安もありましたが、ワクワクも入り混じった感情でしたね。

移住して一番驚いたのは、秋田の雪の多さです。私が育ったいわき市という場所は、福島の中でも太平洋側に位置しており雪があまり降らない地域だったので、秋田の雪の多さには驚愕しました。」

宿を構える秋田県横手市は、日本有数の豪雪地帯。雪深いまちの暮らしは、慣れていないと大変なことも多かったと鈴木様は話します。そんな特色のある地域でビジネス旅館を経営される中意識されてきたことについて、鈴木様は以下のように話しています。

「ビジネス旅館ますだを利用するお客様の殆どはビジネスマンです。近隣の建設現場に出張で来られる方々の利用が多いため、長期滞在が8割ほどに上ります。仕事でくるお客様のために宿泊料金は低めに設定していましたが、料理はいいものを出してあげたいと思っていたので、そこのバランスは意識して考えていました。

長期滞在のお客様が多いということは、収益の目処が立ちやすいという側面や、広告等の集客に時間やお金をかけなくても良いというメリットがありますが、毎日違う料理を提供しないとお客様が飽きてしまうので、料理は試行錯誤しなければなりません

また、マナーが悪いお客様がいたら、ちゃんと注意して改善してもらう必要があります。観光の一泊であれば、マナーが悪い方がいても次の日にはチェックアウトするのでそこまで問題ではありませんが、長期滞在となるとわけが違います。滞在しているお客様、皆様が快適に過ごせるような旅館経営を心がけていました。

精神的、体力的にもキツい現場仕事を終えた滞在者が過ごす宿の時間を、少しでも良いものにできればという気持ちでサービス提供をしていたという鈴木様。丁寧な心配りが功を奏し、少しずつ自然とリピーターがついてきたと笑顔でお話しくださいました。

お客様に寄り添ってビジネス旅館ますだを営んできた鈴木様ですが、ご自身が体調を崩したことをきっかけに、今後のことについて考えるようになります。

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脳梗塞をきっかけにM&Aを決意。経営は順風満帆だったが…

愛情を注ぎながら、お客様のために懸命に旅館運営をされてきた鈴木様でしたが、ある出来事をきっかけに譲渡を検討し始めたといいます。

「2年前、仕事をしている途中でめまいや吐き気の症状が出て、救急で病院に行ったんです。診断結果は、脳梗塞でした。それを聞いて最初に思ったのは、家族のことです。妻も子どもも福島にいるので、地元に戻って病気を治した方がいいと思いました。もし万が一のことがあっても、福島から秋田はすぐに来れる距離でもないですから。

また、入院していた期間がちょうどコロナウイルスが蔓延していた頃で、面会が制限されていました。家族と会うことも許されず、不安で心配な日々を過ごしました。ビジネス旅館ますだは、事業自体はかなりうまくいっていたのですが、身体と家族を優先したいと思い、福島に戻ることを決断しました。

旅館経営は順調に進んでいたという鈴木様ですが、脳梗塞という病気を患ったことをきっかけに、大事な資本である自身の身体を最優先にすることを決断。M&Aを本格的に検討し始めた鈴木様は、秋田県事業承継・引継ぎ支援センターに相談して後継者探しを進めていきました。