東京23区の中で最大の面積を誇る大田区は、中心部には賑やかな商業エリア、臨海部には工場や物流施設、それらを取り巻く閑静な住宅地など、多様な色を持つ地域といえます。そんな大田区の南端、多摩川の河川敷に構える「有限会社カーステージタマガワ」は、この度バトンズを通じて会社譲渡を実現されました。

地域に根差した小さな自動車整備工場を、先代のお義父様から譲り受けた二代目社長の越川 直毅様。社長就任からどんな葛藤と向き合いながら会社経営を担い、M&Aという決断を下したのか。その経緯や背景を詳しくお伺いしました。

 

譲渡企業
社名 有限会社カーステージタマガワ
業種 小売業(自動車販売)、点検・整備など
拠点 東京都
譲渡理由 事業展開のための資本力不足

 



 

譲受企業
社名 SAKAEホールディングス株式会社
業種 小売業(石油製品)など
拠点 神奈川県
譲受理由 取引先拡大、 既存商品・サービスの強化

 

サラリーマン生活約30年を経て、義父から譲り受けた自動車整備工場の厳しい現実

大学卒業後、生命保険会社にご就職された越川様は、55歳のタイミングで大きくキャリア転換。自動車整備工場を経営されているお義父様から承継のお話を受け、急遽未経験の業界で初の社長業を担うことになります

「妻の両親が経営している自動車整備工場を継いでほしいという話を、以前からいただいていました。両親も高齢になってきましたし、私自身、車が好きだったこともありましたので、思い切ってこの話を引き受けることにしました。」

引き継いだカーステージタマガワの経営状況は、収益は上がっていたものの、数千万円もの金融借入金を抱えており、財務体質は決して良いといえるものではありませんでした。そんな中で社長として会社を背負うことになった当時の苦労について、越川様は以下のように話しています。

それまで30年近く、生命保険という業界でサラリーマンをしていました。組織としてのヒエラルキーが遵守され、落ち着いた環境で働くことに慣れていた私にとって、専門的な知識が必要、かつ技術力重視である職人の世界で、社長というポジションを担うのには苦労の連続でした。

対外的には『社長なのに、そんなことも知らないのか』という目で見られましたし、対内的には『社長なんだから、これくらいは出来てほしい』ということを思われていたと思います。知識を得るために整備士の資格を取得したりもしましたが、それだけでは何もできないんですよね。

当たり前のことですが、自動車の故障は千差万別で、そんなことは教科書に載っていないわけです。ひとつでも多く現場での経験を積んで、大小さまざまなイレギュラーに対応できるような柔軟性や引き出しの多さがなければならない、というのは実体験を通じて痛感しました。」

異業種で初の社長業、最初の1年ほどは試行錯誤の繰り返しで必死に藻搔いていたと話す越川様は、1年経ったあたりから会社が取り組む事業自体を見つめ直すようになります。そして、会社の中長期戦略を考えたとき、今のままでは会社の存続が危ういと感じた越川様は、より資本力のある方または事業体にバトンを渡すためのプロジェクトを、たった独りで進めることになります。

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財務体質の改善に奮闘。二代目社長が見据えた会社と業界の未来

M&Aを検討するにしても、多額の借金を抱えて債務超過に陥っている現状では、引継ぎ先を見つけるのは非常に困難。そこで越川様は、財務体質を改善すべく、あらゆる手を講じたそうです。

財務体質の改善といえば聞こえは良いですが、簡単に言えば会社支出を如何に抑えるかということです。これまで従業員に対してやっていたことをやらない、あげてきたものあげないということですので、現場からは猛烈な反発を受けました。ただ、社長として会社を背負っている立場ですし、背に腹は変えられないという思いで断行しました。」

地道な努力により徐々に収益が改善していったカーステージタマガワは、順調に借金を減らしていき、昨年には直近十数年で最高益を更新。今こそ企業価値がつくタイミングだと、会社譲渡に踏み切ります。

「M&Aの実施については、先代に説明するのが大変でした。もちろん、工場は彼にとって自分の子どものような存在ですし、昔ながらのお客様との関係性も続いていたので、反対するのは至極当然だと思います。

それでも、100年に一度の大変革時代が到来したといわれる自動車業界で、町の整備工場が10年後も20年後も生き残れるイメージがどうしても持てなかった私は、何度も先代を説得しました。結局、最後は納得いただいたのですが、本心では反対だったと思います。しかし、自分の決断は正しかったと思っています。

自動車整備士という技術職は、ガソリンという危険物を安全に安定的に燃焼させる高度な技術と、それを扱える専門性の高さがあるからこそ価値があります。今後、電気自動車の普及により、電気とモーターというシンプルで安全な仕組みへの移行することに伴い、メンテナンスの仕事はより簡素に単純化されていくでしょう。そんな時代の到来によって淘汰されていく仕事のひとつが、自動車整備業なのだと思うのです

この機会を変化するビジネスチャンスだと捉え、事業を電気自動車に大きく展開することも考えましたが、この会社の規模および資本力では到底無理であり、そのようなリスクを取る選択はできないと判断し、、他の方は又は事業体に任せた方がいいと思いました。」