【イベントレポート】不動産DXカンファレンス開催。1,500名以上が参加

2024年4月9日、estie(東京都港区)が主催する不動産DXカンファレンスが、東京都内で開催された。不動産DX・不動産テックに関連した様々な企業の出展ブースに加え、大手デベロッパーや総合不動産会社などによるトークセッションや講演が開催された。

撮影=リビンマガジンBiz取材班

イベント冒頭では、東京大学・不動産イノベーション研究センター長の柳川範之氏による基調講演が行われた。

東京大学・不動産イノベーション研究センター長の柳川範之氏 撮影=リビンマガジンBiz取材班

柳川氏は「不動産業界はデジタル化・DXの進展により大きな変革の可能性を秘めている。データ活用により不動産流通の高度化、高付加価値サービス提供、開発の精緻化などが可能になる」と、不動産業界におけるDXの可能性について語った。

一方で、DXは単なるデジタル化ではなく、ビジネス戦略に基づいた組織改革と一体で進める必要があり、単なる効率化だけでなく、人材の最適配置と育成も重要だという。

また、日本経済の潜在成長力を高めるには、イノベーションを生み出すプラットフォームとしての不動産・都市の役割が大きく、不動産は担保価値を通じて投資に影響を与え、景気変動に作用するとの見解も示した。

「社会課題の解決がビジネスチャンスにもなる時代。不動産・都市は目先の利益だけでなく、地域課題解決の結果として新たなビジネスを創出するプラットフォームとなりうる。ビジネス戦略と一体となった組織改革、人的資本への投資、社会課題解決の視点を取り入れつつ、イノベーション創出のプラットフォームとしての役割を担っていくことが求められる」(柳川氏)

「大手不動産デベロッパーによるデータ活用とDXの取り組み」では、東急不動産ホールディングス(東京都渋谷区)・日鉄興和不動産(東京都港区)・三菱地所(東京都千代田区)の担当者が一堂に会し、各社のDXの取り組みについて紹介した。

左から、estie・事業開発 櫻井秀介氏、東急不動産ホールディングス・グループCX・イノベーション推進部デジタル戦略グループグループリーダー 鳥巣弘行氏、日鉄興和不動産・企画本部 イノベーション創出部 統括マネージャー 須藤亮氏、三菱地所・DX推進部 協業変革支援ユニット ユニットリーダー 篠原靖直 撮影=リビンマガジンBiz取材班

東急不動産ホールディングスでは、ビジネスプロセス領域、顧客接点の高度化によるCXの領域、イノベーション領域といった柱にDXを推進している。資産活用型ビジネスでは都市の求心力向上や地域課題解決に、人材活用型ビジネスではBtoCで最適なライフスタイル提案、BtoBで働きがいと人手不足解消の両立にデジタル技術を活用している。

三菱地所では、グループ共通の認証基盤を開発し、データの連携を進めるとともに、街の中でプラットフォームとなるアプリケーション開発に取り組む。さらにデータを活用して既存事業のブラッシュアップや新規サービス開発を進めているという。

日鉄興和不動産は、内向き(守り)と外向き(攻め)のDXを推進しているという。社内でのアナログな業務フローのデジタル化や、再開発・マンション建て替え事業でのCRM構築などに取り組んでいる。データ活用における課題認識も共有された。

今後はメタバースやNFT、Web3などの新技術を活用した新たな価値創出や、ビルのログデータ等のデータ利活用など、DXの更なる深化が期待される。一方で、データ整備の難しさや人材育成の課題なども挙げられ、業界全体で取り組むべき課題も浮き彫りになった。

「商業施設の高度化に求められるデータ分析・商業分析の最前線」の様子 撮影=リビンマガジンBiz取材班

「商業施設の高度化に求められるデータ分析・商業分析の最前線」では、商業施設のリーシング業務高度化におけるデータ活用についてデベロッパー、出展企業、データ分析それぞれの立場からの議論が繰り広げられた。

ディー・エヌ・エー(東京都市部約)で、スポーツを掛け合わせた街づくりや再開発事業などを手がけるスポーツス・スマートシティ事業本部 横浜拠点開発室の副室長である瀬志本藍氏からは、従来の不動産業界の営業スタイルはアナログ的な面が強く、個人の感性に頼る部分が大きかったが、今後はデータ分析に基づくマーケティングが重要になるとの見解が示される一方で、適切なツール活用や人材の不足といった課題を指摘した。

飲食店の店舗展開やコンサルを行うドロキア・オラシイタ(大阪市)での店舗開発の責任者、店舗出退店をサポートするBamoove(バムーブ:大阪市)の取締役である阪本一真氏は、テナント側の立場から出店の意思決定に際しての売上予測の重要性を強調。サードパーティデータの活用により精度の高い予測が可能になりつつあるという。また、デベロッパーとテナントのマッチングにおける課題にも言及した。

また、求人情報ビッグデータを扱うフロッグ(東京都千代田区)取締役の阪野香子氏は、商業施設の運営コスト把握における求人データ活用の可能性を指摘する。今後、少子高齢化の中で不動産業界のDXを進めるには複数データの掛け合わせが鍵になると

モデレーターを勤めたナウキャスト(東京都千代田区)のCEO辻中仁士氏は、商業施設のDXは未だ発展途上の領域であるとしつつ、スタートアップにとって有望な市場であり、今後の進展に期待を寄せた。

ピッチセッションの様子 matsuri technologies(マツリテクノロジーズ)・吉田圭汰社長 撮影=リビンマガジンBiz取材班

ピッチセッションの様子 COUNTERWORKS(カウンターワークス:東京都港区)・三瓶直樹CEO

その他にも、スタートアップ11社によるピッチセッションなども行われ、会場は立ち見客が出るほどの盛況ぶりだった。主催したestie・CEOの平井瑛氏によると、会場には当初の定員だった1,200名を超える1,500名が訪れたという。

estie・CEO 平井瑛氏 撮影=リビンマガジンBiz取材班

出展ブースにも多くの参加者が足を運んでいた 撮影=リビンマガジンBiz取材班