■キロノバの現場から重元素「テルル」を観測

【▲図2: ウェッブ宇宙望遠鏡で観測されたGRB 230307Aの赤外線データ。テルル(Tellurium)の存在を示す輝線がある(Credit: NASA, ESA, CSA & Joseph Olmsted (STScI))】

この異例さに注目した研究チームは、GRB 230307Aの発生から29日後と61日後に、ウェッブ宇宙望遠鏡で発生場所の観測を行いました。その結果、GRB 230307Aの残光では2.15マイクロメートルの波長の赤外線でかなり明るく輝いていることが観測されました。これは52番元素「テルル」という元素の存在を示しています。また、「ランタノイド」 (※2) の存在を示す中赤外線の放射も見つかりました。ウェッブ宇宙望遠鏡の高感度な観測精度がなければ、これほど時間が経過した後の場所で何か意味のある観測結果を得られなかったと思われます。

※2…ランタン(57番元素)からルテチウム (71番元素) までの15元素の総称。原著論文では “lanthanides” であるため、本来なら「ランタニド」と書くべきですが、ここでは国際純正・応用化学連合の推奨された語への訳を優先しました。

テルルやランタノイドは、宇宙では比較的希少な元素です。また、宇宙のテルルやランタノイドは、中性子星同士の合体で生成されたものが多く含まれていると考えられているため、テルルやランタノイドの存在はGRB 230307Aでr過程が発生したこと、即ちGRB 230307Aがキロノバであることを示す別の証拠となります。ガンマ線バーストの観測で個々の重元素が発見されたのは今回が初めてです。

またこれとは別に、GRB 230307Aが発生するきっかけとなった中性子星がどこからやってきたのかを、ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データから突き止めました。GRB 230307Aになる前の中性子星の連星は元々、発生場所から約12万光年離れた渦巻銀河が “故郷” であり、元々はどちらも太陽よりずっと重い恒星の連星であったと考えられます。

両方とも中性子星であるということは、少なくとも2回の超新星爆発を経験しているはずですが、この連星は2回の爆発後も重力による結合が切れずに連星関係を保っていたことになります。一方でこの爆発が、銀河から飛び出す原動力になったと考えられます。そして銀河を飛び出してから数億年後、中性子星の連星はお互いに衝突し、GRB 230307Aというキロノバになったと考えられます。

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■将来的には観測数が増える?

ウェッブ宇宙望遠鏡によるGRB 230307Aの観測結果は、重元素が生成する現場という極めて稀な状況を直接観測することに繋がりました。重元素の生成は現在でも詳細が分かっていないことから、この観測結果は極めて貴重です。例えば、生命に必須な元素であるヨウ素は、今回観測に成功したテルルと原子番号が1つだけ違う元素であり、テルルと同じくキロノバで大量生成されると推定されているため、この研究は宇宙に生命が存在する根本的な理由にも絡んできます。

現在NASA(アメリカ航空宇宙局)は、深宇宙を探査する次世代望遠鏡の「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」の打ち上げを予定しており、キロノバの観測数もこれまでよりずっと増えると予想されます。そう遠くない未来には、重元素の生成現場の観測結果が増え、理解も深まるようになるでしょう。

 

Source

Andrew Levan, et al. “Heavy element production in a compact object merger observed by JWST”. (Nature) (arXiv)
Benjamin Gompertz. “Massive space explosion observed creating elements needed for life”. (University of Birmingham)
Laura Betz, Hannah Braun & Christine Pulliam. “NASA’s Webb Makes First Detection of Heavy Element From Star Merger”. (NASA)
Abigail Major & Christine Pulliam. “NASA’s Webb Makes First Detection of Heavy Element from Star Merger”. (Webb Space Telescope)
Sandro Mereghetti, et al. “XMM-Newton and INTEGRAL Observations of the Bright GRB 230307A: Vanishing of the Local Absorption and Limits on the Dust in the Magellanic Bridge”. (The Astrophysical Journal)

文/彩恵りり