スタートアップを⽀援する会社StartPassの代表で、経営支援プラットフォーム「StartPass」の運営も行っている小原聖誉(おばら まさしげ)さんが、スタートアップ業界でチャレンジしている人たちにインタビューする本連載。

今回は、経済産業省の支援事業「出向起業」という制度を使って、広告代理店に籍を置きながら、2021年に株式会社Officefactionを起業した樋口徹さんを直撃。大手企業に所属しながらスタートアップを起業する「出向起業」を利用した理由や、樋口さんが展開するサービスについて、小原さんが伺います。

「出向起業」とは?

経済産業省による事業。大企業などの人材が所属する会社を辞めずに、外部資金の調達などによって自らスタートアップを起業し、出向という形で経営者として新会社で働く。起業を目指す人と企業をサポートし、起業家の創出を後押しすることを目的としている。補助金額は最大500万円(ハードウェア開発を伴う事業の場合は1,000万円)。

「出向起業」で妻も納得して起業を実現

第2回は、「出向起業」を活用する、株式会社Officefaction代表取締役の樋口徹さんが登場

 小原さん

樋口さんは、経済産業省の「出向起業」を活用して起業したそうですね。そもそも、大手広告代理店に勤めていながらも、どうして起業しようと思ったんですか?

樋口さん

もともといつかは起業したいという思いはあったんですが、大きなきっかけとなる出来事が2つあって。

まず1つは、父が他界したこと。命に限りがあることは理解していたつもりでしたが、実際に大切な人の人生の終わりを肌で感じ、やりたいことをやらなきゃという気持ちになりました。
 
もう1つは子供が生まれたこと。この先、この子の人生を考えたとき、自分で選んだ人生を豊かに生きていってほしいと思ったんです。いい学校に通って、いい会社に勤めていれば幸せになれる時代ではないですからね。そう子供の人生を願ったとき、自分もチャレンジする人生を歩んで、子供たちから見てかっこいい父親でいたいと。

樋口さんは2021年8月に株式会社Officefactionを起業

小原さん

素敵な動機ですね。
大手企業からの起業に、不安や迷いはなかったんですか?

樋口さん

僕自身は不安や迷いはなく、それこそやる気に満ちていたんですが、転職して大手広告代理店に入社したこともあって、妻はけっこう不安がっていました(苦笑)。

だけど、会社は副業も禁止だったので、妻に不安を抱かせたまま起業するしかなかった。そんなとき、家族でキャンプに行く道中に聞いていたvoicyで「出向起業」のことを知って。企業に在籍しながら起業できると聞いて「これなら妻も納得の形を取ることができる!」と思って、オンライン説明会に参加したんです。

小原さん

奥さんとしては会社に籍を残しながら起業できるなら安心ですもんね。そこから起業に向けて、具体的に動き出すんですね。

樋口さん

はい。「出向起業」に採択されたとしても、大手特有のしがらみでダメになったり、説得に時間がかかるのは容易に想像ができた。

だから、先に経産省を説得して一緒に会社を調整してもらう形を作りました。僕自身がどうして起業に挑戦したいということはもちろんですが、制度を活用しているという企業PRにつながったり、経営経験を積んだ人材の創出ができたり、あとは起業した会社を優先的に買い取る権利があるといった会社側のメリットもきちんと説明して。そうしたら、「おもしろい!」とOKをもらえたんです。

「出向起業」の条件

  • 退職せずに新会社へ出向し、フルタイムで経営者として従事すること
  • 所属企業以外の資本が80%以上(所属企業資本比率20%未満)
  • 設立後は独立、事業を買い戻してもらう(所属企業に戻る)計画が用意されている

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オフィスのデッドスペースと使いたい事業者をマッチング

小原さん

樋口さんは「出向起業」を活用して起業しましたが、今はどんな事業を展開されているんですか?

樋口さん

コロナ禍になり、テレワークが浸透したことで、オフィスにデッドスペースが生まれていることに着目しました。今、僕らOfficefactionでは、このデッドスペースと、そこでサービスを提供したい事業者をつなげるプラットフォームを開発しています。

小原さん

なるほど。どんな事業者をマッチングさせる予定でしょうか?

樋口さん

マッサージセラピストやヨガ講師、飲食店、ビジネス英会話講師、ネイリストなどを想定しています。

こうしてデッドスペースと事業者をマッチングさせることで、オフィスワーカーが出社したくなる空間づくりにもつながり、仕事に対しての満足度や生産を向上できると考えています。

小原さん

コロナが収束に向かってもリモートワークはスタンダードになると考えられるので、時代にマッチした素敵な事業ですね。どうやってこの事業を思いついたんですか?

樋口さん

このアイデアが思いついたのは、実は3年ほど前なんです。起業したいという気持ちが芽生え、どんな事業をするか考えていたとき、自宅の近所にパンの移動販売車がやってきて。

そこでピンときて、家を飛び出して移動販売のスタッフさんに「パンをオフィスで売ってもいいというお話があったらどう思いますか?」って急に質問してみたら、「めちゃくちゃ嬉しいです!」と返ってきたんです。

小原さん

すごい行動力ですね。それからどうなるんですか?

樋口さん

それで社内の総務担当者にも聞いてみたら、「ニーズあると思う」と言われたんです。これはいけるかもしれないと起業しようと思っていた矢先、コロナ禍が訪れて……。

結局その話はペンディングになったんですが、SNSで「お弁当屋さんやパン屋さんの販路拡大のお手伝いをします!」とつぶやいたとき、問い合わせを多くいただいた経験から、オフィスのデッドスペースを使ったら事業になるかもしれない、と。こうして方向転換し、起業することにしました。

小原さん

樋口さんは資金調達もされたんですよね。どのように行ったんですか?

樋口さん

起業家の先輩や、知人から紹介してもらったVC(ベンチャーキャピタル)※に会いに行きました。30社くらい回ったんですが、ポジティブとネガティブな反応がちょうど半々くらいで。自分なりに事業計画をブラッシュアップしたところ、合計2,600万円の資金を調達できました。

※ 未上場のスタートアップに投資する投資会社のこと

小原さん

そうして調達した資金でプロダクトを作っていくかと思いますが、プラットフォームのリリースはいつ頃を予定されていますか?

樋口さん

開発はスムーズにできていて、コロナの状況を見ながらリリース時期を模索しています。まずはクローズドでリリースしようと思ってます!