2023年はどんな年だったか?──この特集では、GetNaviチームが収集した「数字」を根拠に読み解いていく。データを基に考察を行う「データサイエンス」が専門の宮田裕章氏に、様々なジャンルのヒット商品を縦断的に分析してもらった。GetNavi webではGetNavi1月号掲載のインタビューから、さらにボリュームアップした完全版として、全3回に分けてお届けします。第2回のテーマは「生成AI」です。

※こちらは「GetNavi」 2024年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

宮田裕章●みやた・ひろあき…1978年生まれ。慶應義塾大学医学部教授、データサイエンティスト。データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。同時に世界経済フォーラムなどの様々なステークホルダーと連携して、新しい社会ビジョンを描く。Instagram

 

【宮田裕章さん撮り下ろし写真】

 

「知識」と「問題解決」をITが担う時代に

2023年に起きた大きなイノベーションといえば、なんといっても「ChatGPT」(※1)に代表される「生成AI」(※2)でしょう。生成AIのもっともイノベーティブな点は、その機能というよりも「学ぶこと」と「働くこと」を根本から変えてしまったということです。

 

従来、日本の教育は「知識」と「問題解決能力」に圧倒的な比重が置かれていました。これは「科挙」(※3)の影響もあるのですが、日本を含む東アジア諸国ではとても厳しい受験勉強を強いられてきたわけです。その辛い受験勉強で「知識」と「問題解決能力」を磨き、厳しい関門を突破したら安定した人生が待っている、という状況がありました。

 

それが、まず「検索エンジン」の登場により、「知識」はインターネットから得られるようになりました。そのため、知識よりも「適切な結果を得るための検索ワードをいかに選べるか」という能力が重要になったのです。

 

そしていま同様のイノベーションとして、「生成AI」が登場しました。「問題解決」の大きな部分を生成AIが行なってくれるため、求められる能力が「問題解決」ではなく「問いを立てる力」、つまり「生成AIが適切な答えを返すような問いを作る能力」が求められるようになっているのです。

※1 ChatGPT…米国企業「OpenAI」が開発した、生成AIを利用したサービスの一種。文章で質問し、文章が返ってくる。生成AIの代表格であり、生成AIが認知されるきっかけとなったサービス。 ※2 生成AI…自然言語(人間が通常使っている言語)で質問や要求をすると、答えを返してくれるシステムのこと。回答はインターネット上のデータを元にしているが、人間の思考に近い方法でデータを処理することにより、単にキーワードの一致するデータを返すのではなく、人間の専門家のような答えが返ってくる。文章で回答するほか、画像や映像を生成するAIもある。 ※3 科挙…中国で6~20世紀まで行なわれていた官僚登用試験。過酷な難易度と競争率で知られる。

 

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教育を変えるには大学入試の改革が必要

それでは今すぐ小中高の教育課程を変えればいいかというと、そうもいきません。現在の大学受験が依然として「知識」と「問題解決能力」を求めているからです。そのため、「生成AIを活用できる能力」を習得しても大学受験には役立ちません。

 

そのような探索型の学習を取り入れている意欲的な学校もあるのですが、それは大学受験に直接役立ちはしないため、その意味ではロスとなってしまっています。

 

ということは、まず大学入試を変えなければならないということです。すでに中国では、2年前から受験産業の規制が始まっています。政府が持つ強烈なパワーによって、構造を一気に変えようとしているのです。

 

もちろん、知識や問題解決能力の習得が全部無駄なわけではありません。基礎代謝としての体力は必要です。しかし今はそれが90%以上になってしまっている。その比重を変えていくということが重要です。

 

そして大学時代も単に知識を与える場所ではなく、ともに問いを立てながら社会に向き合っていく場所に変わっていく必要があります。


↑会話システムChatGPT。膨大なデータと学習により、まるで人間が考えて答えたような反応が得られる「生成AI」を利用している