「選挙中、候補者の事務所に電話をすると当落がわかるポイントがある」自称“選挙ジャンキーライター”が語る選挙のおもしろがり方【映画『NO選挙,NO LIFE』が話題に】

「参議院選挙の立候補者全員に会う」ことを目標にした畠山理仁が最も接触に苦労した候補とその理由とは……延べ300時間にわたり畠山にカメラを向けつづけた前田亜紀監督と映画『NO選挙,NO LIFE』の制作裏を語り合う。

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総収録300時間!? 映画製作のこぼれ話


前田 これは本編には入らなかったんですけど、取材した2022年の参院選で特に印象に残ったのは、核融合党の桑島さんを追いかけるところです。「僕の言いたいことはポスターに書いている」と言うので、ポスターを見に行ったんですよね。ご自宅のちかくに。

畠山 行きました、行きました。電話で何度か直接お会いしたいとお願いしたんですが、頑なに固辞されました。

前田 でも、すでにポスターは、畠山さんは入手していたにもかかわらず「生ポスターを見なきゃ。それに、ご自宅の近くに行けばご本人に会えるかもしれないですから」と言い。

畠山 選挙活動を終え、帰って来られそうな時間を狙って行きましたね。

前田 だけども会うことができず、ポスターの写真を撮って帰った。




桑島の選挙ポスターを撮る畠山(映画『NO選挙,NO LIFE』〈未公開パート〉より)


畠山 桑島さんはお医者さんで、病院の前に「選挙期間中は休診します」という張り紙を確認したんですよね。

前田 会えなくて残念でしたと言うのかと思ったら、畠山さんは「半分、ホッとしました。会うことで、とてもいい体験になることもあれば、そうじゃないこともあるでしょう」と。だから、このひとはもしかしたら、すごい人見知りなのかなと思ったんですよね。

畠山 そうですねぇ、人見知りです。選挙だから、ズケズケ聞けるというのはあります。

前田 畠山さんの取材が選挙に特化しているのは、人見知りだからというのもあるんですか?

畠山 あるでしょうね。たとえば、ふだん一回会ったくらいの人と街で出くわしたら、相手がまだ気づいていないというときに黙礼し、死角のほうに歩いていくというのはするかもしれない。

前田 えっ、それは?

畠山 「あ、こんにちは」までは言えるんですけど、選挙以外だと、このあと何を話していいんだろうか。そう思うとねぇ。選挙であれば話すことは容易いんですけど。挨拶したあと、歩きながらいったい何をしゃべればいいのか……。日常会話を続ける自信がないんですよ。

はい。だから、車の中で前田さんに聞かれもしないのにあれだけ選挙のことを話し続けたんだと思います。前田さんがどういう人なのか、まったく聞こうともせずに。


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選挙は候補者に「問い合わせる」と面白い


前田 なるほど…。話を戻して、私がド肝を抜かれた話をしていいですか?

畠山 えっ、何でしょう。

前田 私たち(制作スタッフ)の間では、畠山さんは「穏やかな狂気のひと」と言われているんです。昨年の参院選は34人、候補者がいました。「この中に一人だけ、有権者とキャッチボールをしようとしない人がいます」と畠山さんが言っていたんですよね。それは、HPとかに問い合わせ窓口がまったく設けられていないという意味で。私はそういう視点で候補者を見たことがなかったので、穏やかながらも「狂気」を感じたんです。

畠山 えっ、そうですか? そもそもwebサイトをつくっていない人もいましたけど、普通、主要政党が推している候補者であれば、「みなさんの声を聞かせてください」と体裁だけでも窓口をつくるものじゃないですか。

前田 そこに気がつく畠山さんに、私はびっくりしました(笑)。




映画『NO選挙,NO LIFE』より


畠山 実際、その候補者の街頭演説の予定を聞こうとしたときに、「あれ、どこに聞けばいいの?」と困ったんです。だけど、そうか、一般の方は問い合わせをしようとは思わないんですね。ゼッタイ、問い合わせしたほうがおもしろいのに。

前田 そうなんですか?

畠山 電話するとわかりますから。落選する人の事務所は、電話の声が暗いんです。結果が出る前から。後ろでザワザワしている事務所は活気があって、勢いがあるんですけど。

なかには「ワンルームの風呂場で受けているのかなぁ」というくらい反響する事務所があって、「はい。〇〇事務所です」と言った瞬間、間取りまで想像できてしまう。

前田 それは、畠山さんが長年、電話をかけ続けているからなんでしょうねえ。

畠山 でも、自分が聴きたくないことは聴こえなくて。家族によく怒られています。「さっき言ったのに、聴こえてないの」って。

前田 話が変わるんですけど、畠山さんは嫉妬することありますか?

畠山 しっと?

前田 たとえば、大手新聞のスター記者とかに。

畠山 うーん。「やられたなあ」というのはありますけど。たとえばルポライターの常井健一さんが中村喜四郎さんをインタビューして『無敗の男 中村喜四郎全告白』(文藝春秋)を書かれたときには「やられた!!」と思いました。でも、それは嫉妬ではなく、お見事というしかない仕事でした。

前田 その中村さんは、もともと畠山さんのほうが取材は先にされていたんですよね?

畠山 僕は2005年から中村喜四郎さんを追いかけ始めたのですが、常井さんのほうが熱い手紙を書いていたんですよね。それで常井さんに「喜四郎さん、僕のインタビューには応えてくれなかったんだけど」と言ったら、「手紙を書くときは伊東屋の便箋を使ったほうがいいですよ」というんですよね。常井さんから熱心な手紙をいただいて、というのはいろんな人から聞きますから。しかも、取材を終えてからもお礼の手紙を送っているんですよね。

前田 畠山さんは、手紙は?

畠山 (取材の)壁が厚いときには書きますね。中村喜四郎さんには、僕も手紙は書いてはいたんで。でもダメでした。

前田 「なんだよ」みたいに思うことはないんですか?

畠山 理由ははっきりしていますから。常井さんは俺より一生懸命にやったんだろうとわかるし。だから尊敬ですよね。次こそは自分が、とは思いますけども。