世は空前の副業ブーム! これを読んでいる皆さまの中にも、すでに副業をしている、副業をしたいと考えている人も多いでしょう。

でも、現在お勤めの方が副業する場合、専業フリーランスとはまた違った注意点もあります。場合によっては勤務先に怒られたり、予期せぬトラブルに巻き込まれたりする可能性もないわけではありません。さらに、動画配信や同人活動といった趣味の活動が副業とみなされるケースもあるようで……。

今回は河野冬樹弁護士に、副業をめぐるありがちなトラブルについて伺いました。

河野 冬樹(かわの ふゆき)

法律事務所アルシエン 弁護士。主に個人クリエイター向けにリーガルサービスを提供している。ミステリをこよなく愛する活字中毒者。(Twitter:@kawano_lawyer

聞き手:ぽな

こたつとお布団、コーヒーをこよなく愛するフリーライター。法学部出身のはずが、なぜか卒論のテーマは村上春樹であった。やれやれ。(Twitter:@ponapona_levi

会社に内緒で副業してもいいですか?

ぽな:

「副業解禁」「副業ブーム」などと言われ始めて結構経ちますけど、お勤め先によってはまだ副業が許されていないこともあるようです。それでも副業したいという場合、会社に黙って副業しても大丈夫でしょうか?

なぜ企業は「副業を禁止」するの? 副業禁止のルールと法律は?【弁護士解説】

Workship MAGAZINE

河野:

副業については、最近はOKというところが増えてきましたよね。まず、そういう会社であれば副業しても問題はないでしょう。ただ、こうした副業OKの会社で一番多いのは、就業規則で「副業してもいいけど、会社の許可が必要だよ」としているパターンだと思います。

ぽな:

それ、会社勤めの友人から聞いたことがあります。許可を取らずに副業をしたことが発覚して、後で大きな問題になったケースもあるみたいです。

河野:

まあ、会社の雇用というのは、あくまで「労働時間に対して給料を払う」という内容の契約ですからね。たしかに勤務時間外の、いわば自由時間における社員の活動について会社が拘束していいのか?という問題はあります。副業を許可制にする就業規則は有効なのか、というのはきわめて疑問です。

しかしその一方で、会社としては、自社のブランドイメージや名誉などを傷つけるようなたぐいの副業をされると困るわけで。こういったものは確かに禁止されるのもやむを得ない副業かな、といえると思います。たとえば、銀行員がサラ金の取り立てをやるとか。

ぽな:

それは確かに「ダメでしょ!」って気持ちになりますね……。あと、ニュースを見る限り、いわゆる夜のお仕事との兼業が問題になったケースもあるみたいですね。職業に貴賤はないのですが、本業に堅いイメージがあると、「ブランドイメージの毀損」みたいなことを言われる可能性はあるかもしれません。

河野:

「社会の評価」という主観的なものになってしまいますが、そういう側面は確かにあるんですよね。

ぽな:

仕事の内容によっては会社からストップがかかる可能性が高い、ということですね……。

河野:

あとは、競業との問題もありますよね。会社でやっている事業と同じ内容の副業をして、会社の顧客を奪っちゃうとか。会社としては、やはり自社の企業秘密は守ってほしい。でも、社員としては普段の仕事とシナジーが生まれるような副業をしたい。そういうところで問題が起こりやすいです。

ぽな:

たとえばエンジニアさんだと、本業と同じ内容の仕事を、副業でやっていたりしますもんね。

河野:

最終的には個別判断になってくると思いますが、「競業になっちゃうからダメ」となる副業はやはりあるんだろうと思います。

あと競業の関係でいくと、SNSアカウントの問題もありますね。Facebookを仕事の関係で使っているような場合を想定してもらえるとわかりやすいんですが、個人の名前が出る形でSNSを運用している場合、会社のおかげで知り合えた人たちがSNS上にたくさんいるわけです。こうして培った人脈を副業に使ってもいいか……という問題は起こりえますよね。

ぽな:

会社の看板、ブランド力って大きいですもんねぇ。

河野:

そうですね。「○○社の△△さん」という見られ方になりますし、会社の信頼感がついてくるわけですから、そのメリットは侮れません。ケースバイケースだと思うんですが、会社関係の人脈を副業で使っている場合は問題になることはあると思います。

ぽな:

会社のリソースを使って、自分のビジネスをしていることになりますもんね。あ、会社のリソースという意味では、会社貸与のデバイスやソフトを副業に使っている場合はどうでしょうか?

河野:

これはデバイスを借りる時などの条件によりますね。会社側のルール設定次第ということになると思います。

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副業バレはなぜ起こるのか?

ぽな:

こっそり副業しようとしても、会社にバレてしまうという話を聞いたことがあるんですが、本当ですか?

河野:

公的な手続きでいうと、住民税でバレるケースが多いですね。お勤めの方の場合、住民税は会社が天引きしてくれるんですけど、その手続きの際にほかに収入があることがわかってしまう。

副業は確定申告しないと会社にバレる? ポイントは「住民税」にあり【税理士監修】

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ぽな:

ということは……税金の問題をクリアすれば、バレにくいんですか?

河野:

うーん、副業について確定申告をする際に、確定申告書の「住民税に関する事項」の欄で、「自分で交付」に◯をつける、という手段はあります。ただ、弁護士としては「会社の許可をとったほうがトラブルになりにくいですよ」と言いたいですね。

ほかにも会社にバレるパターンはいくつかあって、最近クリエイティブ系でありがちなのが「身バレ」ですね。人気が出てメディアで取り上げられたり、SNS上の発信を繋ぎ合わせて特定されたり……ということもあります。炎上してしまったり、熱心なアンチがいた場合には、そこで勤務先がバレて、会社に連絡がいってしまう、という可能性もあります。

ぽな:

ひぇぇぇぇ……! 怖すぎますね。SNSでの発信には気を付けないと。

河野:

これからだと、インボイス制度の絡みでバレるということもあるかもしれません。インボイスについては実際の運用次第だと思いますが、身元を隠して覆面作家として活動しているような方は危機感を持っていますよね。

ぽな:

公立高校の先生でミステリ書いてて……みたいな方とか。

河野:

北村薫さん(※)ですね。あの人のようなきれいな話ばかりじゃないような気がしますが。

※ 北村薫

直木賞作家。男性。国語教師の傍ら、覆面作家として『空飛ぶ馬』でデビュー。同作は女子大生の一人称で語られており、その表現があまりに巧みだったため、正体が明かされた際にはミステリ界に衝撃が走った。

ぽな:

うーん、そうですね……。北村薫さんは作品もきれいなので、まだいいですけど、作品の内容によっては絶対に身バレしたくない人もいそうです。

河野:

さっき夜のお仕事の話も出ましたが、18禁の作品を描いている場合はどうなんだ、とかね。実際に問題になったら、会社側とトラブルになる可能性が高いと思います。

ぽな:

そうですね。コミケで18禁同人誌を出して、壁サークルとして数百万の売り上げをあげました……とか、わりとありえそうな話ではあります。

河野:

同人活動は建前上は、営利目的じゃないということになってはいるんですが……。二次創作が法的にどうなんだという問題もあって、非常に考え始めるとややこしい。個人的には、ある程度売り上げを上げちゃうようなサークルであれば、これはれっきとした事業だろうと思うんですけどね。

ぽな:

公務員のように、副業が原則禁止されている職種だと特に難しい問題になりそうですね。

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