素直に「いい」と伝えていたら、仕事が来た
少年B:
長きにわたって活躍するコツはあるんですか?
秋田:
何十年も続けられるのは「続けられるような形でしか仕事をしていないから」だと思います。身体に負担の少ない方法を取っているからでしょうね。
なにせ、フリーランスになってからの35年間で徹夜をした記憶が無いんです。朝9時に来て夜の8時には帰るのがルーティンでした。その代わりに土曜も日曜もだいたい事務所に来て仕事をしています。まあ、それで収まる程度にしか仕事が来ていないのかなと思いますが(笑)。
少年B:
徹夜も残業もしない!? めちゃめちゃ理想的ですね……! では、仕事について具体的にお伺いすることはできますか? たとえば、秋田さんの代表作は信号機だと思うんですが、どのような経緯でデザインすることになったんでしょう。
みなさんがなにげなく目にしているこの薄くなった信号機はわたしのデザインです。 pic.twitter.com/U1fCg5t3sm
— 秋田道夫 (@kotobakatachi) January 9, 2022
秋田:
信号機の仕事をさせていただくきっかけは、高校時代の友人が「大阪にプロダクトデザイナーを探している会社がある」と教えてくれて、その会社が企画していた大型の照明器具をデザインすることになったことからはじまりました。
少年B:
そこが信号機の会社だった……?
秋田:
いえ、まったく関係のない会社なんです。ただ、その照明器具を製造するには、大きな設備のある会社でなければ作れないということで、「信号機メーカーでなら作れるかもしれない」と。
そこで、照明器具の開発チームで福岡県の大牟田にある「信号電材」に見学に行ったんです。
少年B:
なるほど。
秋田:
そばで見ると、信号機って思ったよりかなり大きくて、赤・黄・青のランプの直径は30cmもあるんです。それが間隔を置いて三つ並んでいますから、幅は1mになるんです。その大きな存在感に魅了されて、子どものように「おもしろいな〜! これほしいな〜!」って工場の人に言いながら帰りました。
少年B:
その気持ちはわかります。大きいものはカッコいいですもんね。
秋田:
そしたらその後、社内で「信号機にもデザインが必要なんじゃないか」って話になったようで、「この前来たデザイナーが興味を持ってたから頼もうか」ということになったそうです。
少年B:
「見学でおもしろがってた」って理由で仕事が来るんですね!?
秋田:
もちろん、その照明器具のデザインに好感を持ってもらえていたことが前提だとは思いますが、いいものはいいと気持ちを積極的に伝えることは大事なポイントだと思います。
しかし知り合うきっかけになったプロジェクトは製品にならずに、思ってもいなかった信号機のデザインが広く世の中に普及するというのは面白いものだなと思います。
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素直であれば、体に負担がかからない
少年B:
もうひとつ、代表作であるセキュリティゲートについてもおうかがいできますか? 六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズでも導入されたとお聞きしています。
秋田:
たしか1997年の事だったと思いますが、「これからは福祉の時代だ」と思って、ビッグサイトで開かれた国際福祉機器展というイベントに、自己紹介の資料を携えて売り込みに行ったんです。いま思うと当たり前のことですが、全然手応えがありませんでした。
少年B:
秋田さんにもそんな時代があったんですね。
秋田:
「これはだめですね」という気持ちで福祉機器展を後にして、通路に出たら反対側の展示場で「自動機器展」というイベントが開催されていたんです。
「面白そうだな」と好奇心だけで覗いたら、会場の入り口近くで自動改札のデモンストレーションがやられていて、その機械の側にいらした説明員の方に「これかっこいいですねえ」と話しかけたんですよ。その「自動改札」が、じつはセキュリティーゲートの試作品だったんです。
少年B:
そうなんですか! その言葉は、純粋にかっこいいなと思って?
秋田:
そうです。仕事とは一切関係ないつもりだったので、作ってきた資料もお見せしなかったように思います。
ところが、その説明員の方に「そう言えば設計者がデザイナーを探してるんですよ」と言われて、びっくりしました。そしたら、数日後に設計担当者から本当に電話がかかってきたんです。
少年B:
うそみたいな話ですね。
秋田:
だから、やっぱり素直に褒めるのって大事だと思うんですよ。仕事を欲しいと言うのがよくないって思うのはそこなんですね。
もしあの時、説明員の方に「わたしならもっとカッコよくできます」みたいなことを言ってしまったら、たぶん仕事の紹介はして下さっていないように思います。
少年B:
仕事がほしいと思うと、自分の優位性をアピールしたくなってしまうというか……。
秋田:
そうなんです。だから、長く続けるには自分の気持ちに素直にやっていくのが一番いいと、わたしは思うんです。
少年B:
ありがとうございました。自分も素直にがんばります……!
(執筆:少年B 編集&撮影:じきるう)
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