住宅ローン控除と“併用”するならiDeCo掛け金は調整すべき? etc. 「住宅ローンで知っておきたいこと」総まとめ

住宅ローンの繰り上げ返済に勝る投資はあるのか?

40代向けのライフプランセミナーでの質問です。

「この類(たぐい)のセミナーを受けると必ず金融商品の紹介を受けるのですが、メリット・デメリットの理解が難しく、自分の結論としては住宅ローンの繰り上げ返済のほうが確実かつ高いリターンが見込めると判断し、思考停止しています。

①住宅ローン繰り上げ返済によるリターン(100%確実)
②投資によるリターン(不確実)

①、②、いずれかの効果の高いほうに投資すべきだとは思うのですが、現実社会のケースにおいて、②の効果のほうが高い実例をご紹介いただきたいです。また、これを簡単に測定できる方法があれば、紹介いただきたいです」

そうですね、まずは「リスクとリターンの法則」でご説明しましょうか。この法則によれば、投資する/しないの判断は、以下の基準に基づいて行うことになります。

(ア) リスクが同じなら、リターンの高いほうを選ぶ
(イ) リターンが同じなら、リスクの低いほうを選ぶ

これら基準からすると、ご質問者の判断は正しいですね。なぜなら、①の住宅ローン繰り上げ返済は「100%確実」なのでリスクはゼロ、②は「不確実」でリスクゼロではない、従って、リスクが違うので(ア)の基準では比較できず、たとえ①と②のリターンが同じでも、①のほうが必ずリスクが低くなるので、(イ)の基準で①を選ぶ、ということになるからです。

一方、より高いリターンを得るためにリスクをどれだけ許容できるか、そこに②の投資を選択する余地が生まれるのだと思います。その選択は人それぞれ、専門用語で言えば、「リスク許容度」。少し平たく言うと、どれくらいの損失までだったら耐えられるか、ということ。これが分かれば、リスクとリターンの法則に基づき、②の投資も選択肢になる、ということです。

では、これを簡単に測定できる方法があるのか? 自分でやってみる、という方法もありますが、ここは金融リテラシーの1つとも言われる、「外部知見の活用」がおススメです。

金融機関のホームページを検索すれば、ファンドラップサービスやロボアドバイザーであるとか、簡単ないくつかの質問に答えるだけで、ご自身のリスク許容度にあわせたリターン予想やおススメのポートフォリオ(資産の組合せ)を教えてくれます。ご自身の投資を検討する際の参考になるのではないでしょうか。

最後に1つ、②の効果のほうが高い実例を紹介しましょうか。iDeCoで預金を運用商品として選べば、所得控除が確実なリターンになるので、住宅ローンの繰り上げ返済に勝る、そんな投資になるはずです。なお、iDeCoは長期・積立・分散投資が誰でもできる、資産形成にピッタリな制度ですので、預金だけでの運用はあまりおススメしたくはないですけどね……(苦笑)。

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いよいよ変動金利から固定金利へ切り替えるべき?

40代向けのライフプランセミナーでの質問です。

「住宅ローンを変動金利で借りています。今後の政策金利の変動を見据え、いずれ固定金利に切り替える必要があると考えていますが、その判断基準やタイミングをご教示いただきたいです」

まずは住宅ローンの現状の金利水準を確認してみました。2023年12月時点での金利になりますが、最長35年の全期間固定金利の住宅ローン、フラット35だと一番多い金利水準は年1.910%※3だとか。一方、変動金利だと年0.3%を切っている、そんな住宅ローンもあるんですね(驚)。以前と比べると、固定金利は上がり、変動金利はさらに低くなっている、そんな感じだと思います。

※3 出所:住宅金融支援機構HP

なぜ、住宅ローンの固定金利が上がっているのか? これは7月に日銀が政策変更したから、ですよね。これまで日銀は国債を市場から買い入れることで金利を低く抑えてきましたが、最近の物価高を受けて政策を修正、10年国債金利(長期金利)が1%まで上昇することを容認したのです。固定型の住宅ローン金利は、長期金利に連動しますので、この日銀の政策変更をきっかけに少し上昇している、というわけです。

一方、住宅ローンの変動金利は短期金利に応じて見直されることになりますが、現時点で日銀は短期金利をマイナスとする政策を続けています。その水準は長年変わっていないのですが、金融機関の顧客提示金利は、そこからさらに優遇金利分だけ差し引くことになります。最近、変動金利がさらに低くなっているのは、住宅ローン獲得競争が激しさを増しているので、優遇金利の幅が拡大している、それが理由だと思います。

さて、ご質問された方は「いずれ固定金利に切り替える必要がある」と考えている、とのこと。つまり、これからの変動金利の上昇を予想されているのですね。その判断基準は、日銀がいつマイナス金利政策を解除するか、ということ。その日銀の判断基準は2%の物価目標が持続的、かつ、安定的に実現することが見通せるか否か、ということですから、物価関連の指標は気にしておきたいところですね。

なお、短期金利が上昇すれば、その影響は長期金利にも及び、住宅ローンの固定金利がさらに上がる、ということも考えられるでしょう。そのタイミングで固定金利に切り替えることが適切なのかどうか、正直、それは神のみぞ知る、ということだと感じます。

であれば、やはり、お金を借りるときの基本に立ち返ってみるべきでしょう。変動でも固定でも、金利負担を減らす基本は、なるべく借りないことですから、変動金利の負担が低いうちに、繰り上げ返済の原資を貯めておく、これが金利上昇を見据えた「いま、できる、こと」だと思います。

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以上が住宅ローンに関連したリアルクエスチョン、最近のライフプランセミナーで、参加者の皆さまから実際にご質問いただいた内容と私からの回答をご紹介しました。正直、回答しづらい、そんなご質問もありました(笑)。私が冷や汗をかきながらの参加者とのやりとりも含めて、いわば、それがまさにリアルクエスチョンというわけですが、読者の皆さまの住宅ローンに関するお悩みを多少なりとも和らげる、そんな一助となれば幸いです。