睡眠中に「ピンクノイズ」を聞くと記憶の定着と忘却を促進、ついでに心機能も改善

 リラックスや集中力アップ効果で注目されるノイズ。

 なかでも木々のざわめきや雨音に似た「ピンクノイズ」──いわゆる「1/fゆらぎ」を持った音を睡眠中に流すと、深い眠りを示す「徐波睡眠(ノンレム睡眠)」が増え、記憶の再編成(定着と忘却)が促進される。

 軽度認知障害の患者を対象とした研究では、睡眠中にピンクノイズを流して徐波を誘導すると、起床後の記憶力が改善することが示された。これを治療に応用できないか模索されている最中だ。

 最近は、心機能にも良い効果があるらしいとわかってきた。

 スイス・チューリヒ大学などの共同研究グループは、健康な男性18人(年齢30~57歳)に研究所に3日間、間をあけて宿泊してもらい、2泊は睡眠中にピンクノイズを流し、1泊はノイズなしで過ごしてもらった。

 参加者は、試験日当日の昼寝や飲酒、激しいスポーツを控え、就寝5時間前までに夕食を済ませた後、普段通りのタイミングで就寝。

 ピンクノイズありの夜は、参加者がノンレム睡眠に入った時点で、10秒間のピンクノイズに10秒間の無音を挟み、合計4時間発せられた。睡眠中の心機能や脳波の変動は、事前に装着した心電図電極と脳波計を通じて、常にモニタリングされた。

 その結果、ピンクノイズありの夜は、記憶の再編成を促すノンレム睡眠が有意に増え、さらに翌朝行われた心エコー検査で、血液を身体に送り出す心臓左心室の収縮機能が向上していることが示されたのだ。ピンクノイズの作用は、脳と心臓を連係させる自律神経系を介していると推測されている。

 研究者は、刺激が過剰になるとかえって害になる可能性を指摘しつつ「ピンクノイズやそれに類似した感覚刺激は、心機能を改善する手段として、あるいはアスリートの競技後の回復を促す手段としても有望だ」としている。

 脳波の調整で寝ながら心身を整えるというのは、いかにも現代らしい健康法だ。最近は動画サイトや環境音アプリでさまざまなノイズが提供されている。心地よいピンクノイズを探してみよう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)