生活者の消費・ワーキングスタイルが変化する中、商業施設運営は物販にとどまらないサービス、地域コミュニティーとの連携など進化が求められている。東急グループの一員として、まちづくりのDNAを受け継ぎ、人とまちの生活を豊かにする商業施設を目指す東急モールズデベロップメントの佐々木桃子社長に今後の戦略を聞いた。



23年度、飲食・食物販が好調

――事業概要と現在の業績について教えてください

佐々木 当社は東急沿線を中心に31の商業施設(2024年2月現在)を運営し、入居テナントは1372店舗(2023年3月)となります。2023年3月期の売上高は約2241億円でした。

2024年3月期売上高は、前年同期を上回る水準で好調に推移。コロナ前の2020年3月期も上回る施設も増えています。特に、カフェ、飲食、食物販、子どもの室内遊び場といったサービスが好調です。ただ、客単価は上がっているのですが、2020年3月期に比べ、若干客数が戻っていません。ここにまだ伸びしろがあると考えています。

――客数減の要因は

佐々木 駅チカ・駅ナカ商業施設を運営していますので、電車の乗降客数の減少に連動しています。アパレルを中心にECに顧客が流れていることも原因の一つです。ワークスタイルの変化で在宅勤務をされる方もいますし、通勤回数が減り、電車の利用者が減少していると思われます。

ただ、施設の利用頻度はそこまで落ちておらず、施設特性にかかわらず、当社の施設に、週1回以上いらっしゃる方が6割ぐらい。全施設で、週平均1.9回です。平日は駅チカ施設、休日はグランベリーパークのような郊外型施設と使い分けされている印象です。

また、テレワークに自宅ではなく、コワーキングスペースを使いたいという需要もキャッチしています。当社の運営する「港北TOKYU S.C.」、「たまプラーザ テラス」、「グランベリーパーク」「青葉台東急スクエア」「香林坊東急スクエア」では施設内にグループで運営している法人向け会員制シェアオフィスや、どなたでも使用可能なコワーキングスペースを導入していますが、好評です。テレワークをしている両親と一緒に、お子さんが受験勉強しているという利用者もおり、生活者のワーキングスタイルの変化を感じます。このような変化に積極的に対応し、多くの方に来館いただきたいと考えています。

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データマーケティングでグループ連携

――マーケティング施策について教えてください

佐々木 今、まさにグループのデータを活用したマーケティングを強化しているところです。グループの顧客基盤である東急ポイント会員数は、約266万人です。さらに、TOKYU ROYAL CLUBという商業施設にかぎらず、百貨店、ホテルなど東急グループのサービスをご愛顧いただいているお客様に向けたおもてなし制度もあります。こちらは現在約8万人の会員がいます。

このTOKYU ROYAL CLUB利用者を分析すると、この約8万人のうち56%がたまプラーザを利用していることがわかりました。このようなデータをもとに、ロイヤルカスタマーの動向の分析、潜在顧客の取り込みといった施策を考えていきます。

東急に、URBAN HACKSというデジタルマーケティングを取り組んでいる部門がありまして、ここと連携して「東急カードアプリ」を活用したデジタルクーポンなど新しい取り組みにも挑戦をしているところです。

――データ分析を既存店の改装にも生かしていますか

<たまプラーザ テラス>


佐々木 現在、「たまプラーザ テラス」をモデル店舗に、東急線沿線のほかの施設にも、顧客データ分析で得られた知見を展開することを検討しています。

今春の改装に向けて、データを活用した市場調査に加え、顧客への対面調査も行いました。コロナ禍を経て、自宅で過ごすことが増え、高感度なスポーツ用品、ペット用品へのニーズがあることがわかりました。

そこで、リニューアルのテーマは「こころもからだも満たされる」としました。家族や友人とより多くの時間を過ごせるよう、社会情勢の変化に伴う顧客の生活様式やニーズの変容に合わせて、新規4店舗、改装3店舗が順次オープンします。

ヨガウェアからアウトドア用品まで幅広い商品ラインアップをそろえるスポーツショップ「オッシュマンズ」、最新のグッズやおもちゃ、ファッション、日常の食事や手入れ用品などがそろう高感度のペット用品店「P2 ドッグ&キャット」を新規導入します。