円高になりにくい構造要因

野村アセットマネジメントでは、毎月、世界経済や金融市場の注目点を投資環境レポートとしてお届けしています。

3月の投資の視点は、「円高になりにくい構造要因」です。

<注目点>

●2022年以降、円/米ドルレートは数年前に比べて大幅に円安の水準で推移している。この主な背景は、日米金利差の大幅な拡大があるが、要因はそれだけではない。

●経常収支は黒字となっているが、配当・利子収入の大部分は再投資に回されており、キャッシュフローベースの経常収支は円売り越しと見られる。新NISAに伴う外国株式インデックス投信への投資拡大も円需給を悪化させる。

●今後、日銀のマイナス金利撤廃とFRBの利下げ転換によって日米金利差が縮小すれば、円高に向かいやすいと見られる。それでも、需給面での円安要因は残るため、円高になりにくくなっていると言えるだろう。

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円安要因は金利差だけではない

2024年、1米ドル=141円程度でスタートした円相場は、2月に150円を超える水準まで円安が進んだ。ここ数年での150円の大台突破は、2022年10月、2023年11月に続いて、3回目である。円相場は、150円近辺という数年前から見れば、大幅に円安の水準にとどまってしまうのだろうか。

為替相場に影響を及ぼす要因は複数考えられるが、金利差はもっとも重要なものの一つだ。特に、円/米ドルレートは日米金利差との関係性が強い(図2参照)。過去10年について、円/米ドルレートを日米10年金利差で回帰した時の決定係数は0.49である(図3参照)。これは、同期間の為替変動の約半分が金利差によって説明できることを示している。2022年以降に絞ると決定係数は0.85であり、金利差が与える影響の大きさが分かる。


2024年は、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに転じる一方で、日本銀行はマイナス金利撤廃に向かうことで、日米金利差が縮小し、為替レートは円高に向かうというのが大方の市場参加者の見方だ。年初から、こうした見方に反して円安が進んだのは、想定よりも底堅い米経済指標や早期の利下げを牽制するFRB高官の発言を受けて、日米金利差が拡大したことが一因だろう。今後、日米の金融政策の方向性が実際に異なる方向に向かえば、円高に進むと見られる。

しかし、為替レートは金利差だけでは決まらない。金利差は重要な要素であるが、為替レートは金利差以外の要因も反映している。実際、足元の円/米ドルレートは、過去10年の日米金利差との関係が示唆する水準よりも、大幅に円安となっている(図3参照)。こうした金利差以外の円安要因として指摘できるのは、円の需給面に見られる構造変化である。