顔面をつくる細胞が緑色に蛍光するゼブラフィッシュ胚(画像: 東京大学の発表資料より)

 東京大学は花王との共同研究により、頭蓋顔面奇形を引き起こす化学物質の判定を、ゼラフィッシュ胚によって行う方法を発見した。新たに開発される化学物質が奇形を引き起こすかどうかの判定を、短時間で確実に調べることが可能になる。

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 実験の結果、胚発生のごく初期に、骨をつくる神経堤細胞が身体の正しい位置に移動できなくなると、顔面の奇形が生じると分かった。さらに神経堤の移動先で、咽頭弓の形や大きさにも異常を引き起こし、顎の骨や口蓋の形態異常につながると判明。

 細胞が移動するには、目的地を感知する能力や運動能など、様々な細胞機能を統合する必要がある。そのため、神経堤細胞がら長距離にわたって大移動することで形成される頭蓋顔面骨格は、細胞移動の異常を敏感に反映して奇形を引き起こすと考えられる。

 ゼラフィッシュは、発生の仕組みがマウスやヒトと似ている。また胚が透明なため、蛍光物質で細胞を光らせて身体がつくられる過程を顕微鏡で追跡できる。東大と花王の研究グループは、こうした性質を利用して、顔面をつくる細胞を緑色蛍光たんぱく質で光らせて可視化。奇形が引き起こされるステップを特定した。

 口蓋裂や小顎症などの頭蓋顔面奇形は、新生児の約700人に1人に見られる、頻度の高い先天異常。原因のひとつが、妊娠中の化学物質への曝露だと考えられている。日々開発される化学物質が胎児に安全かどうかを調べる「催奇形性テスト」はこれまで、ラットやマウスの哺乳類を用いて行われてきた。

 だが哺乳類を用いての試験はコストと時間がかる上、動物愛護の観点でも疑問視されつつある。そのため、短期間で正確に評価できる代替法の開発が待たれていた。ゼラフィッシュは受精後120時間以内なら、「実験動物」として見なされない。そのため代替の材料として、世界的に注目されている。

 尚、今回の研究を行ったのは東京大学の武田洋幸名誉教授、河西通客員共同研究員、島田敦子客員共同研究員らのグループで、その成果は、「Toxicological Sciences」に掲載されている。