黒字リストラとは?行われる背景と生き抜くための方法を解説


かつてリストラというと、赤字企業が業績回復のためにやるものというのが通例でした。しかし近年、とくにコロナ禍以降、黒字企業がリストラを行う「黒字リストラ」が行われています。

なぜ業績が良好な企業が、「コスト削減の最終手段」といわれていたリストラを断行しているのでしょうか。
今回は黒字リストラが行われる理由について考えていきます。

黒字リストラとは

黒字リストラとは、業績良好な黒字企業が、企業組織を再構築するために実施するリストラのことです。

一般的に、リストラは業績不振に陥った企業が、切羽詰まった中で最終手段として行われるものと考えられています。この理解は決して誤りではなく、実際、現在も多くの赤字企業が、業績改善のためにリストラを断行しています。

東京商工リサーチによると、上場企業のうち2021年に早期・希望退職を募集した企業数は84社で、そのうち56%・47社は直近の業績が赤字になっていました。しかし、残りの44%・37社は直近の業績が黒字でした。また、「1千人以上」という大規模な退職者を募集した企業が5社あり、そのうち4社は黒字企業でした。

こうした黒字企業によるリストラの傾向はそれ以前から見られ、直近の業績が黒字だったのに早期・希望退職を募集した企業の割合は、2019年は57%、20年は45%。つまり今や、黒字企業がリストラを行うことは決して珍しいことではないのです。

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黒字リストラに踏み切る理由とは

黒字企業がリストラに踏み切る理由としては、以下の点が挙げられます。

財政状態が健全なうちに事業を見直す

現時点では利益が出ている場合でも、その状態が将来にわたって継続するとは限りません。この点は初歩的な経営理論である「プロダクトライフサイクル理論」からも理解できます。

プロダクトライフサイクル理論とは、1950年代にジョエル・ディーンが提唱した理論で、製品・サービスの売上・利益の動きを「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」に分類し、それぞれの段階において取るべき戦略を示したものです。同理論では「衰退期」に至った製品は、投資を抑えて撤退時期の判断が必要とされます。

しかし、健全な事業展開を考える場合、売上・利益が出ずに赤字構造が到来する「衰退期」になってから対策を講じていては、業績悪化に直面する期間が長くなるため、対応としては遅いといえます。

まだ利益が出ている「成熟期」の頃から次の対策を考え、新たな製品・サービスに対応できる人材・設備を整えることで、現製品・サービスが「衰退期」を迎えても、新製品・サービスが「成長期」を迎えて利益を確保できます。これにより全社的に見て業績悪化を防ぐことが可能です。

つまり、「衰退期」を迎えて赤字構造に直面する前、つまり黒字の段階で事業構造を見直し、新製品・サービスに適応できる体制作りをすることが合理的であり、その見直しの中でリストラが行われるのです。

年功序列を見直して人件費を抑制するため

成果主義の重要性が認識され始めているとはいえ、日本企業の多くでは年功序列が継続しています。しかしDX化時代・AI時代が到来するなど産業構造が大きく変化している現在、各企業は本腰を入れて成果主義に移行しようとしています。

その過程で年功序列の賃金制度を見直し、平均給与額が高い40代後半~50代の人件費を削減し、若手の有能な人材の確保に使用したいと考えるようになっています。

シニア世代になる前、再就職が可能な段階で退職を進めるため

現在、人口が多い団塊世代(1947~1949年生まれ)はすでに退職年齢を迎え、次のコーホート(世代集団)として、「団塊ジュニア(1971~74年生まれ)」の定年が迫ります。60歳を定年とした場合、2031~34年に一斉に定年年代に達するわけですが、現在国は、シニア世代を活用するため定年年齢を延長しつつあります。

2020年に国会で可決された「年金制度改正法」、2021年に可決された「改正高年齢者雇用安定法」により、年金の受け取り年齢が70歳まで引き上げられ、さらに75歳でも受け取れるようになることも見据えた内容となっています。これはつまり、民間企業の側で「最低でも70歳、可能なら75歳まで雇用を継続してほしい」という国側の要請ともいえます。

しかし、60代、70代の従業員が第一線で活用するのは難しいと判断する企業もあります。

今後団塊ジュニア世代が定年を迎えた場合、60代、70代の従業員のなかでも、今後活躍が期待できない人材を多く抱えてしまい、人件費が生じ続けるという状況を招きます。そこで企業としては、まだ再就職の可能性がある50代の従業員に対してリストラを断行し、将来のコスト増を防ごうとしているのです。