コーポレート機能拡充とCFO配置が必須

 ここでツルハHDの事例を用い」て筆者が主張したい重要ポイントは、企業規模に見合った「コーポレート機能」が整備されていないDgS企業・小売企業が少なくないのではないかということである。

 一般にコーポレート部門とは本社の管理部門と理解されているが、一定規模以上の小売企業ではより拡張的な意味・機能が含まれる。すなわち「“グループ全体”の事業戦略やリスク管理などの全社横断的なスタッフ機能」である。そして経営陣の中で当該部門を統括する取締役はCFO(最高財務責任者)と呼ばれる。伝統的な「金庫番」(=管理会計と資金繰りを担当)とは区別すべきポジションである。念のため付け加えると“役職名”ではなく担当する“役割・機能”の違いを述べていることに留意されたい。

 両者はバランスシートの見方も異なろう。乱暴な線引きであることを断ったうえで表現すると、金庫番が見るのは借方(資産)と貸方の負債までであるが、CFOは資産・負債・エクイティ(自己資本)のすべてに目を配り、各々の中身と適正水準まで検討する。エクイティ担当の当然の役割としてIR(インベスターズ・リレーション)の最前線に立ち、経営トップの名代として成長戦略を語り、投資家が要求する必要かつ十分な経営数値の開示にも対応しなければならない。

 小売企業の機能は大きく販売(営業)部、商品部、管理部の3つに分けられる。販売・商品部は店を回し、管理部(金庫番)は会社を回す。シンプルであるが、変化の激しい小売業界には適した経営体制である。

 しかし、企業規模が拡大して連結経営となり、かつ株式上場企業になると、“会社を回す”金庫番だけでは不十分だ。コーポレート機能を拡充し、担当責任者(CFO)を配置して「会社の行き先・成長戦略・資本政策まで目を行き届かせる」ことが必須である。金庫番の視点では、高い自己資本比率・無借金経営(潤沢な余剰資金)は“美徳”であるが、株式上場している企業の財務担当者(CFO)・資本市場(エクイティ)関係者の視点に立つと、それらは適切なバランスではないと見なされる。

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コーポレートとガバナンスをいったん分けるべき

 さて、アクティビストの中には古典的なスタイル(一定の株式を保有して、要求した自社株買いが実施されると売り抜ける)も少なくない。しかし、最近は全社戦略の見直し要求が増加しており、会社側にそれを遂行する能力や意思がないと見なすと、社外取締役の選任を要求する、あるいは独立性の低い社外取締役やパフォーマンスの低い代表取締役の解任を求める事例も増えている。

 一般の機関投資家とアクティビストの違いは、前者は企業戦略に納得いかない場合、当該企業の株式を売却するだけであるのに対して、後者はあくまで自らの意思を押し通そうとすることであろう。すなわち、株主の代表であり経営を委託されている立場である取締役会に対して、書類にて要求を伝え、直接、企業の経営判断に影響を与えようとすることであろう。実際、ツルハHDもオアシスから株主提案の書面を受け取っている。

 一般論であるが、アクティビストの株主提案に対しては慎重な対応が求められる。企業側のIRが不十分な場合や、対話を拒否する、あるいは要求に対して十分な吟味もなく「ゼロ回答」された場合、企業側の不誠実な対応や自分たちの要求は企業価値を高める(株価上昇)ものであり、ほかの株主の利益にも沿うものであることを公表するアクティビストも存在する(公開アクティビズム)。マスコミ・経済紙誌のインタビューにも応じて世論にアピールし、企業側に圧力をかけようとすることもある。対応が“めんどくさい”投資家・株主といえなくもないが、彼らの要求に一理あるケースがあるのは確かであろう。理由は、コーポレートガバナンス改革によって、企業価値が向上する(=株価が上昇する)という考えが背景にあるためだ。

 ただし、DgS企業を含む多くの小売企業に関していうと、筆者は「コーポレートガバナンス」は「コーポレート」(企業)と「ガバナンス」(統治)をいったん、分けるべきと考える。すなわち、企業統治(ガバナンス)の前に「コーポレート機能」の整備が先であろうということだ。DgS企業を含む小売企業の多くは、企業規模・時価総額に見合った経営体制なのかを見直す必要があろう。でなければ、株式市場からの圧力に対して無防備と言わざるを得ないかもしれない。

 いまやDgS企業にとって、出店戦略・商品戦略・営業戦略等だけでは不十分である。企業の行き先を見据えた成長戦略と中期経営計画・数値目標、それらを踏まえたバランスート全体に目を配った財務戦略・資本政策・株主還元方針まで必要だ。これらとコーポレート機能を統括し、経営トップの名代となるのが財務責任者(CFO)である。単なるアクティビスト対策にとどまらず、DgS企業としての成長とDgS業界のいっそうの発展には、こうした経営体制のバージョンアップが避けて通れないと思われる今日このごろである。

 


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