字幕なしで観た映画『ハード・デイズ・ナイト』


物販で購入した生写真。FUJICOLOR80と書かれている

そしていよいよ上映が開始。前半はメンバーのソロのプローションフィルム特集のようで、ウイングス「ハイ・ハイ・ハイ」「マイ・ラヴ」やジョンの「スタンド・バイ・ミー」などが流れた。すべて初めて観る映像だけであることはもちろん、聴くのも初めての曲ばかりで、ソロも聞かなければと焦った。次に上映されたのは映画『ア・ハード・デイズ・ナイト』。白黒の映画を観るのは初めてだったが、これが実に衝撃だった。ジャーン!というイントロが鳴ったあと、画面中央の奥からジョン、ジョージ、リンゴが全速力で走ってこっちに迫ってくる。後ろには彼らを追いかける女の子のファンが本気で走っている。途中、ジョージが転び、駅近くでは女の子たちも足がもつれて転倒している。なんだこれは、と、一気に画面に引き込まれた。軽いストーリーはあるものの、人気バンドのツアーという日常風景をうまく切り取り、ドキュメントのように見せて、4人のキャラをしっかりアピールしている。字幕なしだったので、何を言っているかはわからないものの、チャーミングで上品な4人に魅了され、瞬きさえおしまれるほどだった。なかでも、驚いたのはポールのルックスだ。「アンド・アイ・ラブ・ハー」の演奏シーンにおけるアップ、横顔、ハーフシャドウで映される美しい顔に、世の中のこんな美しい人がいるのかと本気で思った。男が男に惚れることがあるのだ、ということを知った。


「アンド・アイ・ラブ・ハー」シングル盤

ラストのスタジオライブシーンも圧巻で、若い4人が鳴らす強烈なビートとシャウト、そこに若い女の子のファンたちのパワーに完全にノックアウトされ、心と身体は放心状態に。あんな高揚感は初めてのことだった。結局この日は、ビートルズの映像を5時間鑑賞したが、あとのことはあまり覚えていない。ほかに観た映像のことは一切記憶にない。友人たちも『ハード・デイズ・ナイト』にいたく興奮していたが、長丁場で、かつ朝が早かったものだから、帰りの電車の中で感想を言い合う元気は残っていなかった。これを書いていてふと思い出したのが、ロビーにアンケートを答えるコーナーがあって、一枚の紙にいろいろな質問が書かれている中に「あなたはビートルズの再結成を望みますか?」という項目があったこと。そうあの頃はまだ4人でビートルズが再結成できる可能性があったのだ。いずれにせよ、1980年7月20日は自分のビートルズ人生にとって特別な日となった。翌日から本格的なビートルズ・デイズが始まった。


『ビートルズがやって来るヤア!ヤア!ヤア!』プログラム