会社の「いのち」が終わるとき ~正しい会社のたたみ方〜

ぽな:

先生、これ前から疑問なんですけど、会社をたたみたくなった場合ってどうすればいいんですか? 会社を作ってはみたけど、諸事情で「もう事業をやめたい」という人もいると思うんですよ。

河野:

そうですね。まず事業の内容によっては売れることもあるでしょう。

ぽな:

売る……。事業譲渡するってことでしょうか?

河野:

そうそう。たとえばの話、1万人のフォロワーがいる企業アカウントとか、たくさん収益をあげているWebサイトとか、そういったものが欲しい企業はいると思いますよ。

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ぽな:

SNS運用もサイト運営も事業の一環として行われているもので、そこから生まれる価値って会社の財産ですもんね……。経済的な価値があれば売れるかも。

あれ、でも会社の事業として制作や創作を行う場合、成果物の権利が会社に帰属することがありますよね。こうした場合、たとえば会社を売っちゃうと成果物の権利ってどうなんでしょう。

河野:

これは売買時の契約次第ですね。相手がSNS運用にしか興味がない、というのなら、著作権を引き上げておくといった対応をすることになると思います。

ぽな:

なるほど。じゃあ、事業が売れなかった場合は……?

河野:

これは精算して、会社そのものを解散させてしまうしかないですね。一番ハッピーなのは会社を清算して、プラスの財産が残ったらそれを個人のもとに戻しておしまいというパターン。

じゃあ、債務超過のときにどうなるのか、というと、これがいわゆる破産というやつでして。

ぽな:

それは大変だ……! で、でも先生。株式会社や合同会社って「有限責任」ですよね? 出資した財産の分しか損しない、って聞いたんですけど。会社が破産しても、個人にはそこまでデメリットないのでは?

河野:

うん、会社法の建前上はそうなっていますよね。

でも、たとえばなんですが、会社の資金繰りが厳しくなって、お金を借りに行くとしましょう。社長一人でやっているような小さな会社に、銀行は黙ってお金を貸してくれるでしょうか。

ぽな:

たぶん、代表者が不動産を担保として差し出したりするか、連帯保証人になったりするかしないと貸してくれないと思います。って、これ……! 会社が破産したら、確実に個人のところに請求が行きますよね!?

河野:

そういうことです。あと、もう1つ落とし穴があって、会社の事業でトラブって会社をたたむ場合。たとえば、会社が著作権侵害をやっていて、それが原因で事業を辞めることになりましたと。

ぽな:

え、それ問題になるんですか? 会社を閉じてしまえばもう終わりなのでは?

河野:

と、思っている方は非常に多いんですが……。会社の代表者や役員が第三者に損害を与えた場合は、損害を受けた第三者は代表者・役員の個人責任を直接追及できることがあるという規定が会社法にあってですね……。

ぽな:

うわ、訴訟起こされたらヤバいじゃないですか、それ。

河野:

「法人の有限責任」って法律をかじった方だと結構知っていると思うんですが、実際のところは会社を閉じればもう大丈夫、とは限らないんですよ。

ぽな:

なるほど……実際、会社を作るときに、無限責任が嫌で株式会社や合同会社にしている人は多いと思うんですが、実はそんな単純な話ではないと。

河野:

そうです。結局、生兵法はケガの元みたいな話で。

ぽな:

うーん、なんでしょう。登記の話もそうですけど、法人化すると守らなければいけないルールが増えるというのはあるのかな、と先生のお話を伺って思いました。

河野:

結局法人にしたところで自分の責任は免れないし、むしろ責任は重くなるんですよね。

ぽな:

知らないって怖いですね……。

あと、そうだ、先生、会社の「たたみ方」に関連して、気になっていたことがあるんですけど、法人成りしたあとでフリーランス本人が死んじゃった場合ってどうなるんですか?

河野:

合同会社の場合は社員がひとりもいなくなったら、解散するというのが原則です。なので、とくに定款に定めがない場合、亡くなった社員の持分が相続人に相続されることはありません。その代わり、出資金を払い戻してもらう権利は相続されるので、それを会社に行使して会社を解散するということになりますね。

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ぽな:

なるほど。株式会社の場合はどうなるんでしょうか? 株式は相続されますよね?

河野:

そうですね。

ぽな:

あとは新しく株主になった相続人同士で話し合ってくれと。えーっと、ん? ちょっと待ってください。

たとえば子ども2人で相続したような場合って、とくに遺言がなければ株式もキレイに半分こするわけですよね。で、株主総会は持っている株式の数に応じて多数決でやるわけですけど、もし株主2人の意見が分かれてしまったら?

河野:

どうしようもないですね。最近出た裁判例で、まさにこれと似たような事案がありましたよ。相続人の1人は「会社を解散したい」、もう1人は「会社を続けたい」、2人の持っている株式は50:50という……。

ぽな:

何も決まらない、決められない。まさに悪夢のような展開に……!

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安易な法人成りにはご用心!

今回はあえて法人成りのビターな側面に全面的にスポットライトをあてる形になりましたが、いかがでしたでしょうか?

河野先生曰く、「法人は社会的に有用な制度ではあるけれども、何も知らずに法人化すると落とし穴が結構ある」とのこと。

法人成りにはメリットもある一方、法律の関係で手続きが面倒になったり、守らないといけないルールが増えたりといったデメリットもあります。

少なくとも、「税金が安くなるから」と安易に法人化するのはどうなのかな、と河野弁護士のお話を伺って、あらためて感じたのでした。

法人成りには一定のリスクや責任が伴うもの。手続きが面倒くさそうだから……と二の足を踏んでいましたが、そんなことを言っている場合じゃないんだなと改めて気付きました。フリーランスの皆様におかれましては、どうか慎重にメリット・デメリットを判断した上、法人化するのであれば落とし穴にハマらないように、しっかりと手続きを踏んでほしいと心から願う次第です。

(執筆:ぽな 編集:少年B 協力:河野冬樹弁護士 イラスト:はこしろ)

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