SGLT-2阻害薬が老化細胞を除去するメカニズム(画像: 順天堂大学の発表資料より)

 高齢化が進み続ける社会の中で、加齢によって起こる病気に対応していくことは重要な課題である。順天堂大学の研究グループは、糖尿病の薬として現在すでに使用されている薬が、老化に伴う代謝異常や動脈硬化などを改善するだけでなく、寿命も延ばすことを、マウスを用いて明らかにした。

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 今回研究を行ったのは、順天堂大学医学部内科学教室・循環器内科学講座の勝海悟郎特任助教、同大学院医学研究科循環器内科学の南野徹教授らの研究グループである。その研究結果は、Nature Aging誌のオンライン版に5月30日付で公開された。

 研究グループはこれまで30年以上、加齢に関わる疾患がどのように発症し、進行していくのかを研究してきた。加齢やストレスによって染色体に傷がついたまま細胞が分裂を続けると癌化してしまう。それを防ぐために細胞が分裂を停止することを「細胞老化」という。

 老化した細胞は、免疫細胞によって自身を排除させるための合図として、炎症物質を出す。炎症により免疫が活性化し、老化した細胞は除去される。

 だが何らかの原因で、除去されなかった老化細胞が残り続け蓄積してしまうことがある。すると炎症が慢性的に起こり続けることになり、その結果加齢に伴う病気が起こり、進行してしまう原因の1つになる。

 このように蓄積した老化細胞を除去する作用を持つ薬としては、これまでに抗がん剤と使用されているものが見つけられていたが、抗がん剤には副作用が起こることが多い。そのため、副作用の少ない治療薬を探すための研究が行われてきた。

 今回新たに老化細胞を除去する効果があることがわかったのが、SGLT-2阻害薬という、もともとは糖尿病治療薬として開発された薬である。この薬は、尿と一緒にブドウ糖を排出させることで血糖値を下げる働きを持つ。さらにその後、心臓や腎臓を保護する作用も見つかり治療薬とし使用されている。

 このSGLT-2阻害薬を、肥満させたマウスに短期間与えたところ、内臓脂肪に蓄積した老化細胞を除去し、炎症、糖代謝異常などが改善した。一方、インスリンを投与して血糖値を下げたマウスでは、老化細胞の除去や炎症の改善は見られなかった。

 つまり、SGLT-2阻害役の働きは、血糖値が低下したことによるものでなく、他のメカニズムによるものだと推察された。

 研究グループはさらに解析を行い、SGLT-2阻害薬がAMPKという酵素を活性化し、悪性度の高い老化細胞に多く見られる「免疫チェックポイント分子」を抑制することを解明。免疫チェックポイント分子とは、免疫細胞による攻撃を逃れる印となる分子のため、これを抑制することで免疫細胞による除去が促進するのだ。

 さらにSGLT-2阻害薬を与えられマウスでは、動脈硬化プラークの縮小、加齢によるフレイルの改善、早老症マウスの寿命の延長を確認した。

 SGLT-2阻害役が免疫系を活性化し、老化細胞を除去。その結果老化に伴う症状を改善することをマウスにおいて確認し、さらにその作用の仕組みを明らかにした。すでに安全性が確認されているSGLT-2阻害役について、今後、アルツハイマー病をはじめとする様々な加齢関連疾患への効果が検討され、人への臨床に応用されていくことが期待される。