今回の研究の概要(画像: 東北大学の発表資料より)

 妊娠中の母親の肥満や2型糖尿病が、子の将来の糖尿病リスクをあげてしまうことが近年明らかになってきている。東北大学らの研究グループは、これまでの研究で、妊娠中に母親が運動をすると、母から子への肥満や糖尿病リスクの影響を断ち切れることを明らかにしてきた。今回はさらに、そのメカニズムを解明した。今後、世代間における健康格差の連鎖を予防していく方法の確立に役立つことが期待できる。

【こちらも】肥満で薄毛が進むメカニズムを解明 東京医科歯科大ら

 この研究をおこなったのは、東北大学の楠山譲ニ助教、理化学研究所の小塚智沙代特別研究員、金沢医科大学の八田稔久特別研究員、東北大学の永富良一教授らの研究グループである。その成果は、3月15日にDiabetes誌(電子版)に掲載された。

 2型糖尿病は、食生活や運動不足などの生活習慣が原因となり、発症することが知られている。だが妊娠中の母親の肥満や糖尿病の影響で、生まれてきた子供が正しい生活習慣をしていても、肥満や糖尿病になるリスクが高まるということが明らかになってきた。

 糖尿病は単に血糖値が高いという病気ではなく、その合併症が大きな問題となる。合併症のうちの1つが糖尿病網膜症だ。糖が多く含まれる血液が流れると、細い毛細血管が傷ついてしまう。目の網膜も傷つく部位の1つで、その結果失明してしまうことがある。40~50歳を過ぎてからの中途失明の生活への影響は大きい。

 また同じように傷ついた血管のために腎臓の働きが落ちてしまった結果、腎不全を起こし、人工透析が必要になってしまうことも知られている。人工透析も、患者本人の人生への影響が大きいだけでなく、国の医療費への影響も大きいものとなっている。

 妊娠中の母親の肥満や糖尿病は、どのようにして子に伝わるのだろうか。マウスで調べたところ、母親が脂肪の多い食事をとると、胎児の肝臓で活性酸素(ROS)が増えていた。その活性酸素の影響で、胎児の糖を代謝する遺伝子を調節する酵素が機能異常を起こし、糖代謝異常、つまり糖尿病を引き起こしてしまう可能性があるということだった。

 だが妊娠中に母親が運動すると、胎盤からSOD3という活性酸素を除去する酵素タンパク質が作られ、糖代謝異常を防いでくれることが明らかになってきていた。そこで研究グループは、どのようなメカニズムでSOD3が働いているのかを調査。マウスの胎子の肝臓にSOD3を注入したところ、その子の生後の糖代謝能は向上していた。

 だが活性酸素を除去する物質として代表的な抗酸化剤であるNACを注入しても、糖代謝能は改善しなかった。つまり、胎子の肝臓の活性酸素を除去するためには、抗酸化物質であれば何でもいいわけではなく、妊娠中の運動により胎盤で作られるSOD3に特有の効果であることがわかったのだ。

 母親の妊娠中の肥満や糖尿病が子供に悪影響を与える一方、妊娠中に運動することでそれを予防することができることと、そのメカニズムが明らかになった。妊娠中の母親の行動が胎児の健康増進に繋がることになれば、今後は次世代医療の開発などに活かされる可能性もある。