前回の記事で、オウンドメディア活用の重要性とその役割についてご紹介しました。今回はさらに深掘りしてアーンドメディア*を活用するためのオウンドメディアの在り方と具体的なコンテンツについて、ニトリの成功例を交えながら、考えていきましょう(本稿は全4回からなる「トリプルメディアの近未来」の第3回目です)。

*有料広告ではなく、かつ当該企業とは直接関係のないメディアや個人などの第3者が運営・発信する媒体のこと

ニトリの成功にみる

小売マーケティングに求められるオウンドメディアの役割


ニトリはオウンドメディアとアーンドメディアをどのように活用しているかを調査した

 口コミや比較、友人や知人の紹介など特にアーンドメディアを重視する若い世代は、能動的に情報を探すというより受動的に情報を受け入れて取捨選択を行うという形が主流になっています。さまざまなプラットフォームが混在し、情報が溢れている中で能動的に選択することは難しく、特にモバイルやスマートフォンに触れる時間が長い若者たちは、比較的受動的な情報の流れを重視する傾向にあります。

 一方で、興味を得るために売り手から発信される一見魅力的で派手な売り文句は、誇大広告やステルスマーケティングを怪しむため、反射的に避けられる傾向にあります。

  彼らが受動的に受け取る情報は、信頼できる人からのオススメや紹介といったアーンドメディア的な手法で、オーガニックな情報により高い価値を感じるようになっているのです。従来のようにGoogleで検索して情報を自ら取得し、購買行動に至る流れは減少傾向にあり、その代わりにSNSが小売業において重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

  このような状況を踏まえると、TVCMで情報を押し出せば興味を引き、探して貰えて購入に至るという公式は成り立たず、すべてのプラットフォームにおいて多くの消費者からオススメ・紹介してもらえるようなアーンドメディア戦略が必須となるのです。そしてそのキーポイントとなるのが、企業が情報を発信するオウンドメディアなのです。


図表1 アーンドメディアの特徴

  この際の重要なポイントは、企業から直接消費者に情報を届けるのではなく、企業からの企画・提案を拾い上げた第三者によって消費者に情報が拡散されるという点です。 

 成功例としてニトリの例を取り上げてみましょう。日本最大級の家具・インテリア小売店である彼らがオウンドメディアとアーンドメディアをどのように活用しているかを調査しました。

  ニトリは、オウンドメディアとしてSNSの公式アカウントやブログを保有しており、その規模は非常に大きく、ユニクロや無印良品といった小売業界における主要なブランドに匹敵するものです。

 また特筆すべき点として、ニトリはコロナ禍でライブ配信を開始しており、現在でも週に23回、毎週水曜日から金曜日にかけて実施しています。これには約1万人もの視聴者が参加し、極めて大規模な視聴数を記録しているのです。さらに、店舗に行くとライブ配信の告知がポスターやチラシで行われるなど、オフラインからも積極的な取り組みが見られます。このようにライブ配信に取り組む姿勢は、他社とは異なる特徴的な点と言えるでしょう。


図表2大量のUGCが展開される構図

  これらの取り組みの結果、ニトリに関するUGCUser-Generated Content、企業ではなく消費者が制作するコンテンツ)や様々なコンテンツがYouTubeInstagramTikTokなどで日々大量に配信されており、オウンドメディアとアーンドメディアが両方とも正しく、かつ効果的に活用されています。ニトリは、その明快な戦略により、オウンドメディアとアーンドメディアを融合させている一例としても注目される企業なのです。

 

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有効なオウンドメディアのコンテンツとは

 ハイブランドが展開するような洗練されたビジュアルやモデルの写真がある投稿は魅力的ですが、消費者が買いたいと感じたり、SNSに投稿したくなったりするようなコンテンツとは異なります。そこでアーンドメディアでの展開が期待できるオウンドメディアで有効なコンテンツのタイプをいくつかご紹介しましょう。


図表3有効なオウンドメディアのコンテンツ

商品コンテンツ

まずは、当たり前のようですが、販売している商品に焦点を当てたコンテンツを作成します。その際、派手な煽り文句や特典を押し出すのではなく、商品の特徴や使い方、優れた点を誠実に分かりやすく伝えることが重要です。

ただし、単に商品やサービスの情報だけを配信する形では消費者には響かず、興味を引くことはできません。消費者が商品をどのように使い、どこに価値を感じるのかを伝えるストーリー性や実用性のある企画が必要になります。

例えば、家具や大型商品の場合、組み立てや使用方法、実際の使い勝手などは非常に重要なポイントです。開封や組み立ての様子を実際に映像で伝えることで、消費者が商品を手に取る前から商品への共感や信頼感を得ることができます。結果、商品の魅力や利用価値がより具体的に伝わり、購買への誘導がしやすくなります。

企画コンテンツ

季節や特定のテーマに基づいた企画を紹介するコンテンツです。消費者のニーズに合わせた提案やアイディアを提供し、商品の利用価値や魅力を訴求します。

また、新商品や人気商品を効果的に配信することも重要です。小売業は多くの商品を扱っており、消費者が全ての商品を目にすることは難しいため、ここでオウンドメディアが役に立ちます。新商品や人気商品を取り上げ、その特長や魅力をわかりやすく伝えることで、消費者の関心を引き、購買へのアクションを促進することができます。

店舗コンテンツ

店舗内での情報や商品の配置、店内の雰囲気を紹介するコンテンツです。特に店舗での体験や雰囲気を伝えることは重要であり、オフラインの魅力までオウンドメディアを通じて伝えることが理想です。

スタッフコンテンツ

社員やスタッフを紹介するコンテンツです。スタッフの個性や専門知識を活かし、商品やサービスに関する情報を提供することで、消費者との親近感を高める効果が期待できます。

あわせて店舗の雰囲気やスタッフとのコミュニケーションも重要で、消費者は商品だけでなく、購買体験や店舗の雰囲気も重要だと考えています。オウンドメディアを通じて店舗内の様子やスタッフの情報を発信することで、消費者との親近感を高め、店舗への来店意欲を喚起することができます。

 

 このように、オウンドメディアのコンテンツは小売業が持つ特有の要素を活かして価値を提供するものであるべきです。企業が直接オンラインのコンテンツを作成しようとすると、どうしても目先のアクセス数を意識してしまい、突飛なアイディアや刺激的なコンテンツを作成してしまいそうになりますが、あくまでも消費者のニーズや興味に合わせて価値を提供し、消費者との関係を築く手段として活用することが大切です。小売業が持つ「商品・店舗・企画・ヒト」の要素を組み合わせて、独自のコンテンツを創り上げることで、堅実で効果的なオウンドメディアを構築することが可能なのです。

 企画やコンテンツは消費者のニーズや興味に合わせて提供することがカギとなります。消費者がコンテンツに共感し、自分自身の生活や利用シーンに結びつけることができれば、オウンドメディアは強力なマーケティングツールとなり、消費者の購買意欲を高めることができます。結果的にUGCコンテンツが盛んに展開されるようになり、バズるコンテンツがアーンドメディアに溢れるようになれば、効果的なメディア戦略を実現することができるでしょう。