経営の混乱に終止符、「新生フジテック」が変えるモノ・変わらないモノ

独立系の昇降機専業メーカーとして国内外で事業を展開するフジテック。2023年6月に就任した原田政佳社長の下、長く続いた経営の混乱に終止符を打ち、新たな成長路線を描こうと模索している。海外売上高比率が約60%を占める中、インドなど有望市場への積極的なアプローチも求められる。また、生産性向上や働き方改革の推進も重要となり、「新生フジテック」としての入り口に立つ。(編集委員・小川淳)

【注目】ガバナンス強化へ発信力高める

「不易流行」―。原田社長が繰り返し強調する言葉だ。これを指針に「ぶれることなく、変えてはいけないこと(不易)、変えるべきこと(流行)のメリハリをつけ、継続して浸透させる」と今後の経営方針を語る。

変わらないものの筆頭に挙げるのは「安心・安全」と「品質の重視」だ。いったん納入したエレベーターやエスカレーターは、数十年にわたり建物で稼働し、人々の生活を支える。さらにその間の保守修理業務でも顧客と長く関わり続けるなど、信頼関係構築の要となる。原田社長は「絶対にこだわっていきたい」と神経を注ぐ。

一方で、変えるものは選択と集中による収益力の拡大に加え、ガバナンス(企業統治)強化および社内外のコミュニケーションの充実だろう。特に香港の投資ファンドと創業家との経営権をめぐる攻防を経て新経営体制が発足したフジテックにとって、ガバナンスなどの強化は不可欠だ。

原田社長が「もともと社内外への発信力が弱かった」と指摘するように、経営トップが前に出ての発信や開示、ステークホルダー(利害関係者)との対話、従業員との意思疎通の円滑化を実践していく。

※自社作成

また、現在6%程度の売上高営業利益率の向上など、収益力の改善も大きな課題だ。歴史や規模で勝り、世界規模で昇降機を稼働する海外の大手メーカーでは同利益率が2ケタも珍しくない。

昇降機メーカーはエレベーターなどの新設事業と、保守修理と更新のアフターマーケット事業の両面で稼いでいる。新設事業は日本市場では首都圏での受注は堅調なものの、年間2万台前後で推移する成熟市場であることに変わりはない。また、海外ではインド市場の勢いは当面続くと見られるが、世界最大の中国では不動産不況の影響が長引いている。

フジテックとしては新設事業だけでなく、アフターマーケット事業をより強化することで、収益力の拡大を図る。そのため、専門技術者の育成でサービスの品質を維持しつつ、遠隔監視システムの導入で効率化などを推進。さらに老朽化したエレベーターの更新需要に「日本のみならず海外でも新規の需要を超えるくらいの市場規模がある」(原田社長)と期待を寄せており、受注を強化する構えだ。

【展開】インド拡大、海外事業中核に

フジテックがインドに建設した第2工場

海外のうち、新しい市場としてフジテックが特に期待を寄せるのがインドだ。23年2月にはチェンナイ近郊のエレベーター工場で第2工場を建設し、全面稼働した。生産能力は稼働前の1・5倍となる年間3000台にまで拡大する。

インドでは急激な都市化と経済成長に伴う建設ラッシュが続いており、昇降機メーカーにとって市場の重要性が年々増しているなど、「インドは外せない」(原田社長)。フジテックでは新工場のほか、高さ約80メートルのエレベーター研究棟を設置するなど、高速機種を含めた開発体制を強化している。

また、22年にインド西部のグジャラート州でトップシェアを誇る現地の昇降機メーカーを買収したほか、23年には大規模住宅開発プロジェクトでエレベーター538台の大型受注を獲得している。

インドでは他の日系や海外の昇降機メーカーも受注や生産体制の強化が相次ぐ中、中国に次ぐ海外事業の中核として市場への浸透を図っていく。

※自社作成

一方、経営課題の一つとして取り組むのが生産性向上や働き方改革だ。特に24年4月からの建設や物流業などの時間外労働の上限規制による「2024年問題」への対処は業界を超えた課題だ。

フジテックでは物流分野の物流と社員研修施設を備えた拠点である東京フィット(東京都大田区)を中心に、無人フォークリフトや自動搬送ロボット、自動倉庫などを一部導入しており、自動化の試みを進めている。

また、23年5月からは大型トラックに2台分の荷物を連結して運ぶ「ダブル連結トラック」を2車両増やし、計4車両として本社工場のある滋賀―東京間などの運行を開始。これにより運転手の拘束時間を5割程度削減できた。井崎陽執行役員は「荷主として、物流の効率化は我々の責務だ」と説明する。

人手不足などによる施工現場の改善では、フィールドエンジニアリング本部を中心に自動化や省人化に貢献する技術や工法を開発し、全社展開を進める。また、据え付け部門や協力会社からのヒアリングなどを実施しており、「現場の意見を取り入れ、改善に結びつけていく」(深松伸夫執行役員)活動を継続し、製品の形状見直しや部品点数の削減、発送形態の変更などを実施している。

さらにロボットや複合現実(MR)技術の活用検討のほか、社内向けに生成人工知能(AI)を導入するなど、技術開発や改善を通じて経営基盤を強化していく。

【論点】社長・原田政佳氏「“二刀流”品質落とさず」

原田政佳

―社内コミュニケーションをどう強化しますか。

「当社は社内外への発信力やコミュニケーション力がこれまで弱かった。取締役2人が各拠点を定期的に訪問しているほか、私自身も訪問時に開発や技術の社員の間に飛び込んで、対話の機会を意識的に増やすなどしている。距離を縮めて話をしやすい雰囲気を作っていきたい。また社内のニュースサイトでの情報量を増やし、個々の社員に焦点を当てるなどしている。(グループが一丸となる)『オールフジテック』の機運を盛り上げるように努力したい」

―大株主である香港の投資ファンドのオアシスとの対話は。

「定期的に面談をしている。特に厳しい内容ではなく、丁寧にお答えをいただいている。我々も業績などを丁寧に説明している」

―国内市場では首都圏など都市部の大規模再開発を中心に需要は堅調です。

「あと5年程度はこの需要は間違いなく続くと考えている。その半面、この4月から時間外労働の上限規制が始まり、仕事の量が増えても今まで通りできるかは別の問題だ。費用もかけながら対応していきたい」

―保守修理業務では独立系のサードパーティー(第三者)がシェアを伸ばしています。

「第三者の保守修理はかなり大きな勢力になっていて経営上の脅威なのは確かだ。我々はメーカーとサービス事業者の両面を持ち合わせている。保守修理の質を絶対に落とさず、当社を選んでいただける顧客を継続して増やしていく」

―中国など新興国市場の見通しは。

「中国の新規市場はしばらく厳しい状態が続くと思う。とはいえ母数が多いので、筋のいい顧客を丁寧に見つけていく。今後、力を入れる市場としてインドは外せない。エレベーターの第2工場を23年に稼働したが、需要に対応していく」

―次期中期経営計画のポイントは。

「不易流行の精神で新生フジテックとしてエクセレントカンパニーへ進化するというのがテーマだ。利益率を重視し、営業利益率などを伸ばしていく。当社はメーカーとサービス事業という“二刀流”の側面がある。品質を落とさず、いい製品を作り、サービスに力を入れていく」