月の裏側での宇宙開発がまた一歩進展する契機になるかもしれません。

モントリオール理工科大学の研究グループは、月の裏側で活動するのに必要な電力を確保する方法として、地球と月とのラグランジュ点(※)のひとつ「L2」に3機の太陽発電衛星(Solar Powered Satellite: SPS)を配備し、月面に設置した受信設備へワイヤレス給電する方法が最適解だとする論文を発表しました。


【▲ 月と地球とのラグランジュ点「L2」に配備した3機の太陽発電衛星(SPS)から月の裏側にワイヤレス給電する仕組みを示した模式図(Credit: Donmez & Kurt(2024))】

※…ある天体が別の2つの天体から受ける重力や遠心力と釣り合って、安定できる点のこと。この場合、別の2つの天体は月および地球となり、人工衛星はラグランジュ点近傍の閉じた軌道(ハロー軌道)を周回する。

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■レアメタルが存在するとされる月の裏側

地球から直接観測できない「月の裏側(far side of the moon)」には、小惑星や彗星が衝突してできたクレーターが数多く存在します。地球にはあまり存在しない白金族元素(レアメタル)の鉱石が存在することから、将来の月の裏側の資源開発が期待されています。

その一方で、月および地球の潮汐力により月の公転周期と自転周期は一致する状態にあるため、月の多くの地域では完全な暗闇が約14日間続きます。このため、月の裏側の宇宙開発では夜間のバッテリー切れによるミッション中断を防ぐように電力を確保することが重要な課題のひとつです。

たとえば、アメリカ航空宇宙局(NASA)は月の表面に送電網を敷く研究を行っています。2007年の報告書によると、月面有人基地の建設を実現するためには0.1〜10kmの距離で50kWほどの容量の電力を送る必要があり、この要件を満たす送電網の材料には銅線が適しているといいます。しかし、材料となる銅は地球から運搬することが想定されることに加え、月の表面を取り巻くレゴリスが送電網を摩耗する恐れがあるため維持費がかさむのだといいます。今回の研究を主導するモントリオール理工科大学のGunes Karabulut Kurt博士は、送電網の敷設はコストの面で実現が難しく、ワイヤレス給電の研究を始める動機となったと述べています。

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■電力供給に光空間通信を利用

研究グループが想定するワイヤレス給電は「光空間通信(Free-Space Optical)」を応用したシステムで、太陽光を利用して電気を得る太陽発電衛星と、光エネルギーを電気エネルギーに変換するパネルで構成されています。月面に設置したパネルに向けて太陽発電衛星からレーザー光を照射し、レーザー光を電気に変換することで、夜間の月面でも電気を得ることが可能となる仕組みです。

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研究グループは、レーザー光の発振器の開口径を50m、レーザーを受光するパネルの直径を1mと仮定してシミュレーションした結果、L2周辺のハロー軌道に3機の太陽発電衛星を配備すれば月の裏側への給電を100%カバーすることが可能であることが明らかになりました。また、太陽発電衛星の数を減らしてどの程度の時間、月の南極への給電を行えるのかをシミュレーションしたところ、3機だと衛星がハロー軌道を1周する8日間すべてで給電をカバーできたのに対し、1機だと44.56%、2機だと88.6%しかカバーできなかったことから、配備する衛星の数は最低でも3機が望ましいという結論に至りました。


【▲ 3機の太陽発電衛星がハロー軌道を周回する様子をモデル化したもの(Credit: Donmez & Kurt(2024))】