国産旅客機、新たな道筋…経産省が策定した新戦略の方向性

日本の航空機産業が再び成長に挑む。経済産業省は4月、国産旅客機開発を盛り込んだ新たな航空機産業戦略を策定した。脱炭素やアジア域内での旅客需要増といった市場の変化を商機と捉え、海外航空機メーカーなどとの連携を前提に次世代への道筋を描く。ただ量産まで10年近い時間がかかる。三菱重工業が進めた小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」も、開発の長期化が撤退要因の一つだった。産業が自律するための仕組みづくりと資金の両面で、長期的な支援を講じられるかがポイントとなる。(編集委員・政年佐貴恵)

新戦略の方向性はこうだ。米ボーイングなどの海外メーカーと連携しながら開発や認証などのノウハウを獲得し、ボリュームゾーンでの収益基盤を確立する。その上で水素エンジンや燃料電池(FC)といった新市場に向け技術を育成する。同時にこれらの基盤を支えるサプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化を図り、2035年以降の完成機事業化につなげる。脱炭素投資に使途を限ったグリーン・トランスフォーメーション(GX)経済移行債も活用しながら、今後10年で官民合わせて5兆円の投資を目指す。

カギは海外連携と、ボリュームゾーンである胴体の幅が狭く機内の通路が1本のみの単通路機だ。新戦略ではMSJ中止の要因に「安全認証プロセスの理解・経験不足」や「海外サプライヤー対応の経験不足」を挙げた。モノづくりの潜在力はあったが、機体の安全性を示す「型式証明」の取得が難航しコストが膨れた点が、撤退の大きな要因だった。

「もう一度MSJをやればいいわけではない」(経産省幹部)。そこで国際共同開発事業の設計・開発段階から参画し、事業化ノウハウの獲得を目指す。また電動化や水素などの脱炭素技術では、国土交通省も含めて航空機の標準化団体である米SAEと連携。次世代航空機のルール作りの段階から関与する。

実現の主な舞台となるのが単通路機。経産省の予測では、世界の民間旅客機生産額は双通路機が年7兆7000億円規模から41年に1・3倍の同9兆9000億円になるのに対し、単通路機は年8兆6000億円から約2倍の同16兆5000億円に広がると見る。経産省幹部は「高度なすり合わせ技術を持つなど日本は優秀なサプライヤーだ」とし、「日本と設計開発から組みたいというニーズはあり、ボリュームゾーンに入れるチャンスだ」と話す。単通路機は主にアジアでの拡大が見込まれるため、地理的に有利な日本を製造拠点候補にできないか、とのもくろみもある。

脱炭素技術の導入検討が進んでいるのも、主に100席以下の小型機だ。日本は軽量化や高効率化に加え、ハイブリッド電動、水素燃焼システム、FCシステムの開発に取り組む方針だ。

だが、課題もある。現在、日本の航空機関連企業が手がける部品は、主にエンジンや機体構造品に加え、一部の装備品にとどまる。より収益性の高い装備品やシステム分野に参画範囲を広げ、航空機産業基盤を強化する必要がある。またデジタル化や試験インフラの整備などもテーマだ。航空機部品メーカーには中小企業も多く、参入ノウハウや設備投資などの面で政府の後押しが欠かせない。

新戦略では「政府の支援・取り組みのあり方」もMSJ失敗の要因の一つに挙げている。「そもそも航空機製造は数千億円規模の巨額の先行投資と10年前後の長期的な開発期間を要するにもかかわらず、投資回収にはさらに数年が必要な典型的な重厚長大産業だ」と指摘。事業者のリスクが増す脱炭素時代を前に「現在の航空機産業支援策は要素技術開発や国際共同開発への参画支援にとどまり、事業者が構造的に負うリスクに十分に対処できてない」とした。

航空機は人や貨物を含め輸送の大部分を担っており、サプライチェーン分断のリスクを軽減する上でも関連産業を国内で有する重要性は高い。それだけでなく、高い品質や精度、加工技術などが要求される航空機製造は日本のモノづくり力を生かし競争力を保てる領域だ。経産省は積極投資により、19年に2兆円規模だった国内年間売上高が6兆円以上に発展できる可能性があると記した。新たな政府支援のあり方も検討しながら、官民双方で長期的に取り組む覚悟が問われそうだ。