
日常生活のなかで国債と直接関わることはあまりないかもしれません。しかし実際、国債は金融市場全体を支えるインフラ。日本経済を理解するのに国債の知識は欠かせません。
話題の書籍では、知っているようで知らない国債に関する仕組みや役割について、金融アナリストの久保田博幸氏が解説。今回は本書序章「国債の3つの役割」、第1章「国債の種類」の一部を特別に公開します。(全4回)
※本稿は、久保田博幸著『知っているようで知らない国債のしくみ』(池田書店)の一部を再編集したものです。
社会基盤を整備するための建設国債
国などの年度の収入のことを「歳入」、その年度の支出のことを「歳出」と呼びます。国は歳出が税収などの歳入では賄いきれない場合、不足分を補うために借金をします。このようなときに発行されるのが国債です。
道路や橋の建設など、社会基盤を整備するために発行される国債のことを、建設国債と呼んでいます。建設国債は財政法を発行根拠法としています。財政法の四条に記載されているため、四条国債とも呼ばれます。
財政法第四条
国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
2 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。
3 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。
財政法では、健全財政主義の原則に基づき、国債の発行で財政を運用することを原則として禁止しています。この背景には、戦前・戦時に巨額の公債が軍事費調達のために発行され、その大部分が日銀で引き受けられたことがあります。それが戦後の激しいインフレーションを引き起こし、その反省がひとつの契機であったとされています。
このため、国の歳出は原則として租税などにより賄うべしとの非募債主義(国の財政は基本的に国債によらないとするもの)を採っています。
しかし、公共事業費と出資金、貸付金の財源になる投資的経費に限っては、財政法第四条第1項ただし書により例外的に国債の発行が認められています。そのために発行される国債が建設国債なのです。建設国債は、国会の議決を経た金額の範囲内で発行できるとされて
おり、その発行限度額は一般会計予算総則 ※1に規定されています。
※1 予算総則とは、国会承認を受けた収支予算書に定める予算の相互流用や建設費予算の繰越しなど予算の運用などに関する規定。
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建設国債の発行理由
建設国債は公共事業などの財源となり、国の資産を形成するために発行されます。道路や下水道、ダムの建設といった公共事業は多額の資金が必要です。我々は将来もでき上がった設備・施設の恩恵を受けることになります。
このような社会基盤が整備されれば、産業の育成などに貢献し、我々の生活にもプラスとなります。その結果、将来の税収入を増やすことも期待できるということが、建設国債の発行を正当化する理由となっているのです。
負担の世代間公平という考え方に基づいて、公共事業などに限り国債発行を認めているものともいえます。ドイツの連邦基本法115条やイギリスのブレア政権が1998年に策定したゴールデン・ルール ※2においても同様の原則が規定されています。
※2 景気循環の一期間を通じて、政府の借入れは投資目的に限り行い、国債発行額は純投資額(粗投資額-減価償却)を超えてはならないというルール。
建設国債の限度額の議決を受ける際に、財務省は償還の計画を国会に提出しなければなりません。この償還計画表は、年度別の償還予定額を示し、満期償還 ※3か年賦償還 ※4かという償還方法と償還期限を明らかにするものです。
※3 利子を払いながら償還期日に全額償還する。
※4 利子を払いながら均等に償還する。
もし何らかの理由で発行年限の変更(10年債の一部を2年債にするなど)が生じた場合には、この償還計画表の差し替えが必要になります。そのため、補正予算を含む予算の審議時においては国債の年限の振り分けなどの変更は可能ですが、それ以外の国債の年限別発行額変更などは難しくなっています(国債の発行年限を途中で修正するのはかなり困難)。