航空機、コロナの低迷から再浮上…エンジン・機体・部品事業の行方

国内の航空機産業がコロナ禍後の低迷から脱却しつつある。世界の航空需要回復により運航機数が増え、米ボーイング、欧エアバスの受注が戻ってきた。重工業大手3社はエンジン、機体の順に復調し、航空機事業の業績が回復している。各社が参画する国際共同開発エンジン「PW1100G―JM」の不具合問題で2024年3月期の業績は悪化するが、長期的には成長を見込む。主要部品大手も高シェアの部品を擁する強みを生かしてコロナ禍前の業績に近づいており、業界全体に力強さが戻っている。(戸村智幸)

エンジン/低迷も長期で成長、スペアパーツ販売伸びる

「高い授業料だが、あのようなことはあり得る。国際共同開発は新しい技術で新しい事業をするからリスクがあり、シェアするということだ」―。IHIの井手博社長は「PW1100G―JM」の不具合問題をそう受け止める。

不具合問題は23年9月に発覚し、コロナ禍後の成長に向かいつつある国内航空機産業に冷や水を浴びせた。

PW1100G―JMは米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)を中心とする国際共同開発エンジンで、エアバス製小型機「A320neo」に搭載されている。同機種は世界各地の短距離路線で運航される人気機種だ。エアバスの23年の総受注2319機のうち、「A320」シリーズは約8割を占めた。

P&Wの粉末冶金部品で不具合が起きたことで、同エンジン約3000台の追加検査が必要になり、搭載機は24―26年に平均350機の地上駐機が見込まれる事態になった。

三菱重工業、川崎重工業、IHIの3社は不具合に関与していなかったが、国際共同開発の契約により参画シェアに応じて航空会社への補償費用を分担することになり、24年3月期に一括計上した。航空機エンジンが主力事業のIHIは参画シェアが約15%と3社で最も高いため、24年3月期に1600億円の営業損失を計上。当期損益で900億円の赤字を見込むなど大きな影響が出た。

こうした痛手になったのは確かだが、航空機産業は回復途上にあり、今後も成長が見込める。コロナ禍後はまずエンジン、次いで機体製造と回復してきた。足元では航空機の運航が増えたことで、エンジンはスペアパーツ販売などが伸びている。エンジンは元々、新造よりもスペアパーツなどO&M(運用・保守)で稼ぐビジネスモデルだ。

国際航空運送協会(IATA)は23年12月、24年の世界の航空旅客が47億人となり、コロナ禍前の19年の45億人を上回って過去最多になる予測を公表した。PW1100G―JMは別にして、他のエンジンは今後もスペアパーツ販売拡大が期待できる。

機体/「787」生産レート遅れ解消

機体も長期的に拡大が見込める。機体製造の産業構造は、ボーイングのティア1として、三菱重工、川重、SUBARU(スバル)などがボーイングの機体を分担製造するのが特徴だ。特に中型機「787」は日本企業の参画比率が計約35%と高く、影響は大きい。

ボーイングは品質問題により787の納入を停止していたが、22年8月に再開した。ただ、納入待ち機体があるため生産レートの回復が遅れていた。それが解消しつつあり、三菱重工、川重ともに24年3月期の生産台数は23年4―12月期時点で23年3月期実績を超えた。川重の山本克也副社長は「手がける787の機数は増えていく」と来期以降を見通す。

部品/復調、生産性改善の好機 ボーイング集中からエアバス開拓

重工大手だけでなく、主要部品大手も復調が顕著だ。ナブテスコはロボット用減速機など多様な産業機器を手がける一環で、航空機器事業を展開する。飛行姿勢制御装置(アクチュエーター)は多くのボーイング機に採用されている。

木村和正社長は「コロナ禍前に戻りつつあり、今後は超える状況になるだろう」と自信を示す。同事業の売上高は19年12月期の228億円をピークに、21年12月期には132億円まで落ち込んだ。その後は回復し、24年12月期は250億円とコロナ禍前を上回る見通しだ。

ボーイングの小型機「737MAX」向けがまず、続いて787向けの受注が増えている。MROも好調だ。

ナブテスコは飛行姿勢制御装置の受注が伸びている

追い風にある現状を生産性向上の好機と捉える。アクチュエーターの生産拠点の岐阜工場(岐阜県垂井町)が対象で、木村社長は「伸びている時期は生産性改善の効果が出やすい」と期待する。大きな設備投資までは必要ないとみる。

日機装も航空宇宙事業が回復している。工業用ポンプと医療機器の透析装置が主力事業で、航空宇宙は第3の柱だ。機体着陸時のエンジン逆噴射を支える部品「カスケード」は世界シェア90%超を誇る。

事業売上高は19年12月期の179億円から20年12月期に95億円まで急減した。その後は上り調子で、24年12月期は210億円とコロナ禍前を超えるとみる。

日機装はカスケードの世界シェアが90%を超える(子会社の宮崎日機装)

ただ、思い通りに回復しているわけではないようだ。甲斐敏彦社長は「世界の航空機サプライチェーン(供給網)の回復が想定より遅れている」と指摘する。コロナ禍の需要急減でボーイング、エアバスや世界の部品大手がサプライヤーを整理したとみる。サプライチェーンの再構築に時間がかかり、ボーイングなどの生産体制はコロナ禍前までは戻っておらず、その影響で日機装の受注量の回復が想定より遅れているという。

カスケード以外の部品を伸ばす戦略にも影響が出ている。カスケードの素材である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のノウハウを生かし、エアバスの小型機「A220」のCFRP製部品をベトナムで生産する計画だが、開始時期が遅れている。23年12月の予定だったが、24年後半を見込む。遅れるものの、ボーイング向けが多い中で、エアバス向けを伸ばす点でもA220の部品を手がける意味は大きい。

国内の航空機産業は、エンジンの国際共同開発体制、ボーイングへの依存度の高さ、世界のサプライチェーン再構築など構造的な問題はあるが、全体的には立ち直っている。航空需要の回復を追い風に、飛躍の時を迎えようとしている。

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