SBI、楽天…ネット証券2社は手数料無料化で「先駆者の利益」享受なるか

SBI証券と楽天証券のネット専業証券大手2社が、国内株式のオンライン取引による売買委託手数料を10月(SBIは9月30日注文分)から全面的に無料化する。無料化でより多くの投資家を獲得する狙いだが、収益へのマイナス影響は小さくない。証券各社が追随するかどうかが焦点だが、温度差があることは確かだ。顧客獲得をめぐる競争が激化し、業界再編につながる可能性もある。(編集委員・川口哲郎)

口座数拡大で “穴埋め”

株式の委託売買手数料の無料化は米国が先行している。新興証券のロビンフッドが2015年に無料サービスを開始。19年に大手ネット証券のチャールズ・シュワブが追随し、各社にも動きが広がった。

SBI証券と楽天証券が無料化を発表した8月31日、マネックスグループは追随しないと表明した。「米国の証券会社は手数料をゼロにしても別に収入源があるが、日本はそれがない。どう考えても赤字になる」。マネックスグループの松本大会長はこう指摘する。

ロビンフッドなどが無料ビジネスモデルの原資の一つとするのが、顧客注文をディーラーなどに回送して受けるリベートで、「ペイメント・フォー・オーダー・フロー(PFOF)」と呼ばれる。この他に信用取引から金利収入や提携先銀行での運用などで手数料以外の収入を得ている。

日本はPFOFの慣行がなく、低金利下で金利収入も限られる。手数料ゼロ化は収入源を失うことを意味する。値下げ競争により手数料収入は相対的に減ってきたとはいえ、営業収益の構成比でSBI証券は約1割、楽天証券は約2割を占めている。

SBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長はかねて全面無料化を公言してきた。「我々のアクションが投資家のためになる」(北尾会長兼社長)という信念からだ。年間の手数料収入200億円を失っても、補って余りあるプラス効果を見込む。それが口座数の拡大だ。

同社口座数は過去14年以上で年平均成長率12・9%を記録し、3月には国内初の1000万口座に到達した。無料化により「それほど時間を経ずして2000万口座になる」(同)ともくろむ。全国の総口座数は6月時点で約3400万。SBIHDだけで過半以上を握る算段だ。

法人・富裕層向け資産管理事業照準 新NISA追い風

同社はリテールの規模の効果を他のビジネスポートフォリオに及ぼして収益を拡大する戦略を描き、布石を打ってきた。その一つが法人や富裕層の各種資産を総合的に管理するサービスだ。投資銀行業務経験者を中心に人員を集め、10月から業務を始める。同社はこれまで非対面取引でマスリテール層を中心に取り込んできたが、対面による富裕層向け事業に本格的に乗り出す。新規株式公開(IPO)の主幹事業務を年間20社程度引き受けており、ここで接点を持ったオーナーを新たな顧客基盤とする。

傘下の投資会社などを通じて2000社以上のネットワークを築いており、事業承継ファンドも活用したM&A(合併・買収)助言サービスなどの相乗効果を見込む。米大手資産運用会社のKKRとも提携し、24年度上期までにオルタナティブ(代替)資産を富裕層の個人投資家に提供する予定だ。

SBI証券の高村社長は「新NISAで1000万口座を獲得する」と意気込む

24年からの少額投資非課税制度(NISA)の抜本的な拡充も追い風にする。政府がNISA総口座数を現状の1700万から5年間で倍の3400万口座に拡大する目標に対し、SBI証券の高村正人社長は「新NISAで1000万口座を獲得する」と増加分の過半を取り込む構えだ。三井住友フィナンシャルグループとの提携の枠組みや資本提携する地域金融機関のネットワークも駆使して新規開拓する。

SBI証券が手数料ゼロ化のファーストペンギンとなり、楽天証券も後を追ったが、これに続く証券会社はまだない。両社は大海で豊富な魚群にありつき、先行者利益を享受できるのか。手数料競争が激化し、脱落する企業が出てくるのか。その答えは遠からず示される。

インタビュー

グループで収益機会逃さず

SBIHD会長兼社長・北尾吉孝氏

北尾SBIHD会長兼社長に手数料無料化の狙いや展望を聞いた。

―株式委託手数料を無料化する理由を教えてください。

「一つは証券を大衆化、民主化する。もう一つは旧態依然とした日本の証券界の構造を変えようという、大きく二つの点で革命を起こす狙いだ。手数料をゼロにする以上、損失は200億円弱あるが、これを埋める確信が伴っている。私の予想では現状の1000万口座がそれほど時間を経ずして倍増する。これから投資を始める新しい顧客もいれば、既存の証券会社から移る顧客もいるだろう」

―証券業界に与える影響をどうみますか。

「(手数料無料で先行した)米国の状況をみるとロビンフッドが無料化した後に各社が追随し、ついていけない会社は廃業した。結果、会社数が40%弱減った。当然ながら日本もかなり数が減るだろう。つぶれる会社には気の毒だが、我々はこのアクションが投資家のためになるという1点だけを見ている」

―手数料無料化に伴う収入減はどうやって補いますか。

「顧客が倍の規模で増えていくわけで、外国為替証拠金取引(FX)の顧客にもなり、広い面でポジティブな影響が出る。そのためにこれまで収益源をずっと多様化してきた。保険や銀行など証券がシームレスに結びつき、グループ全体の波及効果がある。SBI新生銀行との一体化も進める。グループ全体の生態系の力を発揮することで相乗効果がどんどん生まれ、全体でみると非常にプラスだ」

―非対面取引と対面取引のバランスはどうお考えですか。

「対面を全面的に否定しているわけではない。特にホールセールでM&A(合併・買収)の必要資金を調達していくような提案営業はますます重要で、(対面取引の)専門部署をつくって充実させている。我々はネットという極めてコストの安い手段でリテール(個人)を拡大し、これを強みにしながらホールセールも拡大している。車の両輪のようなもので、片方だけではやっていけない」

―ビジネスポートフォリオをさらに広げる余地はありますか。

「デジタル化の商品を広げる。また海外の有力パートナーが開発した商品を提供する。法人向けの新たな商品も提供していく。お金を持っている集団だから、いろいろなビジネスが展開できる。我々の生態系を縦横無尽に駆使し、あらゆる収益機会を逃さない」