
かれこれ27年前になりますが、当時の橋本龍太郎元首相が掲げた大規模な金融制度改革がありました。「金融ビッグバン」などと称されたもので、「フリー」、「フェア」、「グローバル」を三原則として、金融領域においてさまざまな規制緩和が進められました。
この流れのなかで私自身、ふと気になることがありました。それは、「規制緩和によって金融詐欺が増えるのではないか」という懸念でした。
怪しい広告を出す運用会社へ、いざ直撃
そんなことを考えているうちに、当時、勤務していた会社のポストに、1枚の新聞広告が入ってきました。見ると、「元本確保型外国籍投資信託」とあります。運用はニューヨークに本拠を構えるG&G(グース&グリドアイアン)という会社でした。
その紹介文によると、ニューヨークで各種ヘッジファンドの運用を行い、高い運用成績を収めているとのことでした。
この広告を見た時点で、「怪しい」と思いました。なぜなら当時、新聞の折り込み広告を用いた投資信託の宣伝は、できないことになっていたからです。しかも、その広告には、まるで確定であるかのように、利回りまでが提示されていたのです。
早速、G&G社に連絡を入れ、代表者と面談しました。彼が言うには、当時底値と思われていた日本の成長企業、および日本の不動産に投資することによって、着実にリターンを得ること。そして、広告の方法に対しては、あくまでもニューヨークに拠点を置く外国の運用会社であるため、日本の法律の制約は受けなくて済む、というものでした。
もちろん、それは詭弁です。たとえ海外の運用会社であったとしても、日本国内で不特定多数の人を相手に公募型の金融商品を販売するのであれば、日本の法律に則した販売方法をしなければなりません。外国籍とはいえ投資信託である以上、元本確保や利回りの表示は認められないのです。
まさに、うそで塗り固められた真っ黒な詐欺商法でした。
(広告の後にも続きます)
事件化しなければ警察も動けないジレンマ
この商品のうさん臭さについては、雑誌の記事で警鐘を促したものの、具体的な被害者が出て来なかったため、そのまま販売が続けられました。
これは他の多くの金融詐欺にも当てはまりますが、事件化しない限り、警察はアクションを起こしません。よほどの確証をつかめない限り、疑わしいという段階では、捜査に着手できないのです。
もちろん、それ以前に金融庁など金融を監督している省庁が動いて、詐欺的な事業者に勧告を出すケースはありますが、そもそも悪意を持ってお金集めをしている連中ですから、金融庁の勧告程度で活動を止めることはありません。警察も事件化しない限りは捜査に着手しませんから、この間に詐欺の被害はどんどん増えていきます。
しかも、金融詐欺を行う連中は、そう簡単に尻尾を出しません。発足して数年間は、他の人から巻き上げた資金を使って元本の償還や利払いに応じるのです。
これは完全な自転車操業なので、必ずどこかで破綻するのですが、そうなる前に元本の償還や利払いを行って信用させ、さらに多くの資金を引き出そうとします。こうして詐欺被害はどんどん大きくなるのです。
したがって、怪しい業者に対してはいち早く、その活動を停止させるようにする必要があるのですが、現実問題としてそれがなかなかできないところに、ジレンマがあります。
G&G社の被害も、こうしてどんどん広がっていきました。G&Gが国内で営業を開始したのが1998年8月。同年12月には、当時の金融監督庁が「投資信託に該当しない」ということで注意処分を行いましたが、そのまま販売は続行され、結局、首都圏を中心にして約600人から、合計約18億円もの資金を集めてしまったのです。
この時点でG&G社の自転車操業が破綻して被害者が出ていれば、これで被害は食い止められたところですが、事態はさらにとんでもない方向へと進んでいきました。