
「私は運が悪い」とあなたは思っていないだろうか? でも実は「運がいい」と思っている人も「運が悪い」と思っている人も遭遇している事象は大差がない場合が多く、運は「その人の考え方と行動パターンによって変わる」のだという。脳科学者・中野信子氏が「運がいい人」が自然と自分の脳に習慣づけている考え方や行動パターンを紹介する。
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運のいい人はポジティブな祈りをする
具体的な努力や工夫はひとまず置いておいて、とにかく祈る。特定の神さまに向けてというわけでなくても、ご先祖さまやお天道さま、道端のお地蔵さまなどにそっと手を合わせる。願いがいますように、運がよくなりますように、と。
こんなときがあってもいいと思います。祈ることは、心と体の健康にプラスに働く、ひいては運の向上につながる場合があるからです。
では、どんな祈りが心と体にプラスに働くのでしょうか。それは、自分のことだけでなく、自分以外のだれかの幸福も願うポジティブな祈りです。
たとえば「今年こそ、仕事の営業成績が伸びますように」とは、毎年多くのビジネスパーソンが初詣でで祈ることかもしれませんが、これは自分のしあわせだけに焦点を当てた祈りといえます。
この場合なら、自分の営業成績が伸びることで、自分以外のだれかがしあわせにならないか、と考えてみるのです。
営業成績が伸びれば給料が上がって、念願の家族旅行が実現するかもしれません。良質の商品を売るということは、お客さんに便利さや喜びを売っているともいえます。
つまり、自分が叶えたいと思う願いの先に、自分以外の人の幸福がないかを考え、そこに焦点を当てて祈るのです。
「今年こそ仕事の営業成績が伸びますように」という願いなら、「家族旅行を実現させるために営業成績が伸びますように」「たくさんのお客さんに便利さと喜びを届けられますように」などと祈ります。
「素敵な人と巡り合えますように」という願いなら、「両親も喜ぶような、素敵な人と巡り合えますように」、「一戸建てが欲しい」という願いなら、「子どもたちが伸び伸び暮らせるように、一戸建てが欲しい」「両親や友だちがいつでもゆっくり泊まっていけるように、一戸建てが欲しい」などと祈るのです。
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脳がジャッジする「よい祈り」と「悪い祈り」
人間の脳には前頭前野内側部と呼ばれる部分があり、ここは自分の行動の評価を行っていて、祈りの内容についても脳はよしあしのジャッジを下しています。
自分のことだけを考えた祈りよりも、自分以外のだれかの幸福も願った祈りのほうが「よい祈りだ!」と脳が判断するのはいうまでもありません。
「だれかを蹴落としたい」「あの人に負けてほしい」などのネガティブな祈りは、もちろん「悪い祈り」として判断されます。
脳が「よい祈り」と判断すると、ベータエンドルフィンやドーパミン、オキシトシンなどの脳内快感物質(脳内で機能する神経伝達物質のうち、多幸感や快感をもたらす物質を一般的に総称した用語)が脳内に分泌されます。
なかでもベータエンドルフィンは、脳を活性化させる働きがあり、体の免疫力を高めてさまざまな病気を予防します。さらに、ベータエンドルフィンが分泌されると、記憶力が高まり、集中力が増すことも知られています。
また、オキシトシンにも記憶力を高める作用があるといわれています。
ちなみに、脳が「悪い祈り」と判断した場合には、ストレス物質であるコルチゾールという物質が分泌されます。コルチゾールは生体に必須のホルモンですが、脳内で過剰に分泌されると、脳の「記憶」の回路で中心的な役割を担う「海馬」という部位が萎 縮してしまうことがわかっています。
このように、「よい祈り」は心と体の健康にプラスに働き、「悪い祈り」はマイナスに働くのです。
といっても、あまり強引に他人のしあわせを考えるのはおすすめできません。
前頭前野内側部は、をわりとシビアに見抜くのです。心から思ってはいないことを祈りに付け足しても、脳は「それは偽善でしょう?」と判断し、ポジティブな祈りとはなりません。
そこでけっして無理はせず、自分以外のだれかのしあわせも考えて祈る。それが心と体にプラスに働き、ひいては願いを叶えやすくする、ともいえます。
文/中野信子 写真/shutterstock
#2「運がいい人」が自分の脳に習慣づけている行動パターン。マイナスを引き受ける度量を持つ人はなぜ、運がいいのか?