
フィンランドといえばクリーンエネルギーといったイメージを持っている人も多いだろう。しかし、ロシアからのエネルギー依存回避のため原子力発電を推進しているという一面も持っているのが実情だ。日本とフィンランドの原子力協力も進められているなか、注目すべき“原子力分野でのフィンランド”の取り組みを見てみよう。『フィンランドの覚悟』(扶桑社新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
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森の国フィンランド
フィンランドの国土面積は、日本よりも一回り小さく、約33万8000平方キロメートルである。そのうち66.2%が森林によって占められている。ちなみに日本の森林の対国土面積比は66.0%である。
スウェーデンの統治時代から、林業資源は「緑の黄金」と呼ばれ、外貨を獲得する上で主要な手段であった。輸出に占める森林産業の比率は、1960年代には7割だった。近年では2割に減少しているが、現在でも主要な産業の一つである。
フィンランドには、森林を除けば天然資源が乏しい。同じ北欧でも、ノルウェーは石油、天然ガス、スウェーデンは鉄鉱石という資源に恵まれているのとは対照的である。
フィンランドでは、将来を見据えた取り組みも進められている。紙の需要減少を見越して、バイオ産業や石油代替用製品などに移行しつつある。加えて、フィンランド政府は木造建築プログラムを定めて、木造建築を推進している。
木が重要なのは、経済分野においてだけではない。建築あるいは文化の面でも、木はフィンランドにおいて、重要な役割を果たしている。
フィンランドでは近世に入ると、それまでの石造ではなく、木造の教会が一般的となった。フィンランドの美しい森と湖の景色に溶け込むように、多くの木造教会が残されている。
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ロシア依存回避のため原子力発電を推進
日本人は、フィンランドと言えばクリーンエネルギーといったイメージを持っているかもしれない。
たしかに、フィンランド政府は2022年10月に、風力発電、太陽光発電関連など6つのクリーンエネルギー・プロジェクトに対して総額1億ユーロの投資支援を発表した。
だが、本当に注目すべきなのは、原子力分野でのフィンランドの取り組みであろう。
フィンランドでは、原子力発電が推進されている。発電量から見たフィンランドの電力供給構成は、2020年には原子力が33.8%とトップを占めた。次いで、水力が23.0%、石炭が7.5%、天然ガスが5.8%、石油が0.3%であった。
なお、スウェーデンにおける原子力発電のシェアは、30.0%とフィンランド同様に大きい。ウクライナ危機後にノルウェーは、ロシアに代わって、ヨーロッパ最大のガス供給国となっている。
ウクライナ侵略の前から、フィンランドは、ロシア依存の回避に取り組んでいた。
2015年と2020年で、ロシアからの天然ガスの輸入量を比較すると、フィンランドでは減少している。ロシアに対して強い警戒感を抱くバルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアでも、同じ期間に輸入量が減少した。
これに対して、ドイツ、イタリア、ハンガリーなどでは、輸入量が増加した。ロシアからのエネルギー輸入量の増減には、各国のロシアに対するスタンスも、ある程度は影響しているだろう。