
創業457年の西川は寝具の卸・小売に留まらず、睡眠ソルーションを提供する企業として進化を遂げている。2018年に開設したECサイトにおいても、寝具を購入できる場としてだけではなく、実店舗で培った「睡眠改善のノウハウ」を生かしたコンテンツやサービスを提供している。直営店舗とECサイトが連携したOMO(ネットとリアルの融合)サービスに注力しており、その第1弾として昨年5月から、店舗スタッフによる商品の魅力を伝える投稿サービスを開始している。店舗スタッフの投稿を見たユーザーのコンバージョンレート(CVR)は、通常の4倍と跳ね上がる。「スリープマスター」の資格を持つ店舗スタッフの接客スキルの一端をECサイトに再現することで、確かな成果につなげている。現在、直営店とECサイトの顧客管理の一元化を進めており、さらにネットとリアルが融合したサービスを提供していく考えだ。広域戦略事業部でECサイトの運営を担当する第1部 第2課 リーダー 定方真麻氏と、直営店を担当する第1部 第1課 早田真也氏に、ECサイトの強化策や、OMO施策の展望について聞いた。
<「三方よし」受け継ぐ老舗が進化>
――EC事業について教えていただく前に、西川がどのような会社か教えていただけますか?
定方:当社は1566年に創業した、今年で457年目を迎えた老舗の企業です。ルーツは近江商人にあります。当社の社是である「誠実」「親切」「共栄」は、近江商人の「三方よし」の考え方に通ずるものがあります。自社と顧客の利益だけではなく、社会全体の利益につながるような商売をしようという姿勢は創業当初から変わりません。
老舗企業と聞くと”古臭い”と思われるかもしれませんが、チャレンジし続けているからこそ、長く企業が存続できていると考えています。新しいことにどんどん取り組んでいく社風があります。
▲広域戦略事業部 第1部 第2課 リーダー 定方真麻氏
――寝具の販売がメインの事業ですよね?
定方:1887年から、ふとんの販売を行っています。今から約130年前ですね。「ふとんの西川」と呼ばれているので、寝具のイメージが強いと思いますが、最近は寝具の卸・販売から、睡眠ビジネス全般に関する商品・サービスを提供する企業に進化しています。
睡眠ビジネスというのは高機能・高品質な寝具を販売するだけではなく、睡眠にお悩みのお客さまに対するソルーションを提供することを事業の主としています。
その代表的な取り組みとして、「ねむりの相談所」という睡眠に関する相談ができる店舗を展開しています。
BtoBのビジネスとして、企業へ「ちょっと寝ルーム」という、ちょっとした昼寝ができるお部屋の提案もしています。15分ほど昼寝していただくことで、午後の仕事のパフォーマンスを高めることができます。
▲実際の西川の「ちょっと寝ルーム」
ほかにも、大学や研究機関が持つ研究成果やノウハウを活用し、新しい商品・サービスを開発する取り組みも行っています。
▲広域戦略事業部 第1部 第1課 早田真也氏
――ECサイトはいつぐらいから運営しているのですか?
定方:オンラインショップは2018年3月に開設しました。それまではコーポレートサイトで商品を紹介していましたが、そのページに訪れたお客さまが商品をその場で買うことができないという不便を解消したいという思いで、立ち上げました。
直営店や取引先で商品は購入できますが、実店舗ですと商圏が決まっておりますので、ご来店いただけるお客さまも限られてしまいます。
オンラインショップであれば、お住まいの地域に関わらず当社の商品やサービスをご利用いただく機会を作ることができます。時代の流れに応じて、当社もECビジネスを強化しています。
<実店舗のサービスをECサイトでも再現したい>
――どのようなECサイトを目指していますか?
定方:東京・日本橋にある「日本橋西川」という店舗がフラッグシップとなるお店となりますが、ここでは寝具を買えるだけではなく、睡眠のお悩みに応えるさまざまなサービスを提供しています。
「ねむりの相談所」としてお悩みにお応えしたり、枕をオーダーメイドで作ったりすることもできます。
「N3D‐body」という最先端の3Dスキャンシステムで体型を計測し、そのデータから体に合う枕やマットレスをご提案することもできます。
▲「N3D‐body」で体型に合った枕やマットレスを提案できる
「西川公式オンラインショップ」は、「日本橋西川」のウェブバージョンとしてサービスを提供することを目指しています。オンラインショップではまだ提供できないサービスもありますが、付加価値のあるサービスを提供しようと日々、奮闘しています。
▲広域戦略事業部 第1部 第2課 リーダー 定方真麻氏
――実店舗のようなリッチなサービスをECサイトでも提供しようと考えているのですね。
定方:ECサイト強化の方針は主に3つあります。まず1つ目として、お客さま目線でのサイト作りに気を付けています。実店舗の接客にいかに近づけられるかを意識し、お客さまがどのような情報が欲しいのか、どのようなコンテンツがあると商品を買っていただけるのかを考えて、お悩みを解決できるような情報発信を心がけています。
サービス面では、実店舗でも提供していますが、分割払いの金利を当社が負担するサービスを提供しています。高価格帯の商品もお買い求めやすいようにしています。
2つ目には、お客さまと直接やり取りできることを生かし、お悩みを吸い上げて商品開発に生かしています。そこから開発した商品をオンラインショップ限定商品として発売する取り組みも行っています。
3つ目として、当社の価値を伝えることを意識しています。商品の良さが伝わる画像を掲載したり、複数回買っていただけるお客さまを増やすためにCRM施策も行っています。
当社の製品をお使いいただいている大谷翔平選手や羽生結弦選手などを起用したキャンペーンも展開しています。大手企業と販促のタイアップも行い、ブランドの認知拡大に貢献したいと考えています。
ECサイトはお客さまからの問い合わせの窓口でもあり、レビュー機能などからもお客さまが求めていることを一番肌で感じられるチャネルだと思います。日々、お客さまの声を集め、ページの改善に生かしています。
<店舗スタッフの接客スキルをコンテンツに活用>
――店舗スタッフが商品をお薦めするコンテンツもあるのですね?
定方:EC側の目線だけでサイトを作ると、どうしても事業者目線ばかりになってしまいます。実際に実店舗で接客しているスタッフがどのようにお客さまへ商品を説明しているのかを、ECサイトのコンテンツとして提供することで、よりお客さまに分かりやすく商品の魅力を伝えることができると思っています。
早田:「スリープマスター/スリープアドバイザー」などの資格を持つ店舗スタッフが日々、眠りのプロとしてお客さまの眠りのご相談に対応しています。そこで培った経験を生かし、ECサイトでも接客させていただくという感覚で、店舗スタッフもコンテンツ制作に携わっています。
▲広域戦略事業部 第1部 第1課 早田真也氏
――店舗スタッフのコンテンツはどのようにECサイトに投稿しているのですか?
早田:昨年5月にビジュアルマーケティングツール「visumo」を導入しました。「visumo」を活用し、写真や文章を通して、商品の魅力を伝えたり、商品選びの参考になるようなコンテンツをECサイトに投稿しています。
<情報共有会や表彰制度でスタッフの意欲向上>
――ECサイトには多彩な投稿が並んでいますが、最初からスムーズに投稿できたのですか?
早田:20代から50代まで幅広い年代のスタッフがおり、中には少しデジタルに詳しくないスタッフもいます。まずは「商品の写真を撮って、投稿してみましょう」というところから始めました。
毎月、店舗から代表者に参加していただき、情報共有会を行っております。お客さまから反応があった投稿を分析し、どのような投稿をしたらいいかを共有していきました。
デジタルに詳しくないスタッフも付いていけるように、しっかりと取り組みに参加していただけるような形で進めています。
徐々に投稿内容が進化してきており、写真の見せ方や文章の表現も変わってきています。
商品の機能性だけではなく、商品のお手入れ方法を紹介するなど、店頭接客で伝えているような内容をコンテンツとして投稿しています。
投稿数は次第に増え、今ではコンスタントに安定してコンテンツを配信できています。
――スタッフのモチベーションを高めるためにしていることは?
早田:情報共有会で各店舗に良かったと思う投稿をピックアップしていただき、がんばっているスタッフの取り組みが共有されるようにしています。
情報共有会でスタッフの取り組みを応援するだけではなく、表彰制度なども設けてモチベーションを高めています。
よく投稿してもらえるスタッフや、多くの反響を得られた投稿をしてくれたスタッフなどを半期に1度、表彰しています。
情報共有会や表彰でスタッフの取り組みが広まることで、他のスタッフもその投稿を参考にして、工夫して投稿する動きも出ています。
写真を加工してコメントを入れたり、図解のような形で商品の特長を分かりやすく紹介したりする投稿が増えてきました。
定方:EC担当者として「目からうろこ」だと感じた投稿もあります。例えば、[エアー]ブランドの枕専用ピローケースに関して、「端まで全部ぴったり入ります」と紹介している投稿がありました。
専用ピローケースなので、ぴったりであることは当たり前だと思い、そのことを伝える意識はなかったのですが、実際、お店ではお客さまから、その部分を尋ねられることが多く、お客さまに伝える必要があったのだと気付かされました。
店舗スタッフにとっては当たり前のことなのですが、その視点をECサイトにも生かすことができて良かったと感じています。スタッフの日頃の接客と「visumo」のおかげで、こういうコンテンツが作れるんだなと感心しました。
▲広域戦略事業部 第1部 第2課 リーダー 定方真麻氏
<「スタッフ投稿」見た顧客は平均注文額が1万円アップ>
――店舗スタッフの投稿の反響は?
定方:店舗スタッフの投稿を見たユーザーのコンバージョンレート(CVR)は高いです。投稿をご覧になった方のCVRは、通常の約4倍になっています。お客さま目線で店舗スタッフが投稿してくれていることで、購入の意思決定がしやすくなっていると肌で感じています。
平均注文額においても投稿を見たユーザーの方が1万円くらい高いという結果が出ています。当社の商品はこだわりが強く、ECサイトではなかなか伝え切れていない部分があったと思います。店舗スタッフが商品の価値を伝えられているからこそ、少し高額な商品もECサイトで買っていただけているのかなと思っています。
――実店舗にも投稿の反響はありますか?
早田:投稿を見た方から実店舗に問い合わせがあったり、来店された方から「投稿見たよ」と言っていただいたりするケースが増えています。
コンテンツの投稿は接客の延長線上だと思っています。ほかのスタッフの投稿を見て、自分の接客の参考にしているスタッフもいます。スタッフの接客レベルの向上にもつながっていると考えています。
――ECサイトの今後の強化策は?
早田:「visumo」を通して直営店舗とオンラインショップのシナジーをより一層高めていきたいと考えています。
以前は接客したお客さまがECに流れてしまうというということに、やるせない気持ちを持つ店舗スタッフもいたと思います。
「visumo」を通してオンラインショップとの連携を進めることで、その意識は変化しています。
当社では直営店舗とオンラインショップの顧客管理の一元化も進めています。店舗スタッフの投稿を先駆けとして、今後は実店舗とオンラインショップで連携した、さまざまな施策を実施していきたいと考えています。
定方:実店舗で買うか、ECで買うかをあまり意識せずに、商品購入やサービスを利用できるようにしたいと考えています。
顧客管理の一元化を生かして、サービスを進化させることで、ネットとリアルを融合させたビジネスモデルを作っていきたいと思います。
まだ構想段階ですが、オンラインショップから「ねむりの相談所」の予約ができたり、店舗スタッフの商品紹介以外の情報もオンラインショップやメルマガで発信したいと考えています。
■「西川公式オンラインショップ」
https://shop.nishikawa1566.com/shop/default.aspx
■「visumo」
https://visumo.asia/