
個人投資家や金融のプロが集い、さまざまな情報を発信するイベント「インデックス投資ナイト2023」が2023年7月8日に開催された。
投資家から投資家への情報発信イベント「インデックス投資ナイト2023」に潜入!
3つのセクションで構成されたイベントの第二部に行われたのが、金融庁 総合政策局総合政策課 金融税制調整官の今井利友氏を迎えた勉強会「おしえて金融庁さん!『新しいNISA』」。2024年から始まる「新しいNISA」の制度設計を担当した今井氏に、新制度開発の裏側を聞いてしまおうという大胆な企画だ。
多くの人が気になっているであろう「新しいNISA」について、今井氏がざっくばらんに語ったイベントの様子をお届けしよう。
金融庁 金融税制調整官の今井利友氏
“NISAの統合”がきっかけで実現した「総額管理」
第二部の司会を務めた投資ブロガーの虫とり小僧氏がまず今井氏に投げかけたのは、「総額管理の考え方はどのように生まれたのでしょう?」という問い。
2023年までのNISAは「一般NISA」と「つみたてNISA」に分けられ、どちらか片方しか使えなかった。また、それぞれに「600万円(一般NISA)」「800万円(つみたてNISA)」という非課税投資枠が設けられていた。
しかし、2024年から始まる「新しいNISA」は、「成長投資枠」と「つみたて投資枠」を併用可能で、両方合わせて「1800万円(そのうち、成長投資枠は最大1200万円)」という非課税投資枠が設けられている。
「成長投資枠」と「つみたて投資枠」を合わせて、一括管理する総額管理の考え方は、「2018年に『つみたてNISA』がスタートすることが決まった時点で検討が始まっていた」と、今井氏は話す。
「2017年の終わりくらいに金融庁の幹部に呼ばれまして、『NISAは一般・つみたて・ジュニアの3種類ができたが、将来的にはこの3つを統合したいから、どのように統合するか検討してほしい』と、言われたんです。そのときに、総額管理の案を出しました。このプロジェクトは本当に極秘中の極秘で、庁内でも数人しか知りませんでしたね。何度も何度も検討を重ねて、ようやく『新しいNISA』を表に出すことができました」(今井氏)
ここで虫とり小僧氏から、「そんなに入念な準備をしていたのに、一時期、1階部分がつみたてNISA、2階部分が一般NISAという2階建て方式の新NISAも生まれかけましたよね。なぜ、ああいったものが出てきたのですか?」と、鋭い質問が飛ぶ。
これに対して今井氏は、「NISAを恒久化すると、生涯にわたって金額を管理することになるので、『総額管理が本当にできるのか?』という意見が出て、総額管理は一度ボツになったんです。その代替案として出たのが、2階建て方式でした」と、内情を率直に回答。
「ただ、2階建てはなかなか皆さんの理解を得られず(苦笑)。改めて総額管理が実現できるか、とあるシステムエンジニアさんに聞いたんです。我々としては、さすがに数百億~数千億円もかかるシステムはつくれないと思っていたのですが、『そんなにかけずにできる』との返事をいただいて、総額管理が可能になったという経緯です」(今井氏)
「そもそも最高1800万円という金額になったのは、なぜでしょう?」という質問には、次のように答えた。
「一般的に改正要望を出す際は、金額を提示して要望するもので、『つみたてNISA』のときには1200万円で要望を出して、結果800万円になりました。『新しいNISA』に関しては例外で、金融庁から要望を出さず、政治的に決めていただこうとお任せしたんです。その結果、1800万円というびっくりする金額をいただきました」(今井氏)
(広告の後にも続きます)
お金を取り崩して使いながら再チャレンジできる制度
総額管理に続いて話題に上ったのが、簿価残高方式での管理について。
簿価残高方式とは、株式や投資信託などを購入したときの買値で非課税投資枠が管理されること。つまり、購入した株式や投資信託での利益は加味されず、あくまで買値だけで最高1800万円まで活用できるのだ。
また、100万円で購入した投資信託が200万円に値上がりした際に売却した場合、買値の100万円分の枠が空くことになる。この100万円分は、翌年以降に非課税投資枠として再利用できるのが、新しいNISAのメリットといえる。
虫とり小僧氏が「簿価残高方式での管理はかなりありがたいのですが、この方式になった理由は?」と質問すると、今井氏は「再チャレンジできる制度のほうがいいんじゃないかということで、決まりました」と、その理由も話してくれた。
「簿価残高方式だと売った分は枠が空き、翌年にリセットされて、再度買うことができます。人生にはいろいろあって、例えば病気で入院費がかかったとしたら、お金を下ろさなければいけないかもしれません。ほかにも入り用なときってありますよね。その場合に、NISAが1800万円買い切りの制度だったとしたら、下ろすに下ろせない。しかし、簿価残高方式であれば、お金を下ろしても翌年から再チャレンジできます。本当に必要なお金は取り崩して使いながら、何度でも積み立てられる制度にしたいと思い、簿価残高方式での管理を採用しました」(今井氏)