法人格という概念は、ビジネスでさまざまな解釈ができるため、不適切に用いられることがあります。法人格に関するトラブルを防ぐための考え方が「法人格否認の法理」です。M&Aのトラブルを回避するためにも重要な法理であり、経営者であればよく理解しておく必要があります。
今回は、法人格否認の法理の概要をはじめ、関連する判例やM&Aで適用されるケースについて解説します。
法人格否認の法理とは何か?
法人とは、法律上で人と同じように権利・義務を持つことが認められた組織です。そして、法人が持つ権利能力を法人格といいます。法人格という概念があるおかげで、私たちは会社同士で契約・取引を取り交わすことができます。
株式会社は法人であり、株主とは異なる人格を持ちます。ただ、状況によっては法人格を認めることで、紛争や事件の解決が難しくなる場合があります。また、法人格が悪用され、正義・公平の原則に反してしまうことも少なくありません。
そのため、一定の場合に会社の法人格を否定する「法人格否定の法理」が存在しています。
法人格否定の法理は、特定の事案において法人の存在を認めながら法人格というヴェールを取り去り、見えてきた実態に即して法律的な対処をする考え方です。
会社の法人格を全面的にはく奪して、法人の存在を否定するわけではありません。絶対的否認ではなく、相対的否認であることを理解しておきましょう。
参考:滞納処分における法人格否認の法理の適用について(広島国税局徴収部徴収課)
(広告の後にも続きます)
法人格否定の法理が認められるケース
法人格否定の法理が認められるケースは主に下記の通りです。
・法人格が濫用されている場合
それぞれのケースについて解説します。
法人格の形骸化
法人格の形骸化とは、会社が実質的に株主の個人営業で成り立っている状態をさします。具体的に下記の傾向があると、法人の形骸化とみなされるといわれています。
・株券の違法な不発行
・帳簿記載や会計区分の欠如
・業務の混同
・財産の混同
たとえば、株主が社長一人しかいなくて、社長が会社の財産と個人の財産を混同している場合、法人格が形骸化している可能性が高いです。
法人格の濫用
法人格の濫用とは、法律の適用を回避するために法人格が悪用されている状態をさします。
学説上では、濫用を判断するための要件として、支配要件と目的要件の2つが挙げられています。
要件 | 内容 |
---|---|
支配要件 | 会社を自己の道具として用いることのできる支配的地位にある背後者が法人格を利用している |
目的要件 | 違法な目的で法人格を利用している |
違法な目的としては、法人格の利用による法律回避や契約義務回避、債権者詐害などが該当すると考えられています。背後者が会社を完全に支配して会社と株主の分離原則を無視する場合は、目的要件を満たさなくても法人格の濫用とみなされるようです。
参考:「法人格否認の法理」に関する訴訟法的考察(立命館大学)