「老後の収入は一切ありません」無年金の父が扶養に…娘が被った迷惑

「無年金」になってしまった経緯とは

「ところで、なぜお父様は無年金になってしまったのでしょうか?」

そう筆者が聞いてみると、恵理子さんがこれまでの経緯を話してくれました。

「父は年金を全く納めていなかったわけではありません。年金受給に必要な加入期間を満たせなかったのです」

というのも、お父様の年齢であれば、60歳から報酬比例部分という年金を受け取ることができたはずでした。しかし、年金受給に必要な加入期間は当時25年で、その後2017年に年金受給資格期間は10年に短縮されたものの、それでも加入期間を満たせなかったと言うのです。

お父様は、若い頃は4年ほど会社員をしていたため、厚生年金に加入し保険料を納めていました。その後、結婚し今は亡くなったお母様と一緒に食堂の経営を始めたそうです。

会社員から個人事業主になったため、自ら納付の手続きをする必要がありますが、目先の忙しさにかまけて手続きを放置。市の職員が戸別訪問し督促に来たこともあったようです。

現在では未納者に対して、電話や文書での督促、委託された民間事業者による戸別訪問、保険料を納める能力がありながら、納付されない場合は財産の差し押さえという取り組みがされています。

もちろん当時も督促はありましたが、お父様は仕事が忙しく納付を放置し続けました。お母様が亡くなった後は食堂を閉店し、タクシー運転手として働き始めました。この時の勤務形態はパートですが、厚生年金に加入し年金を納めることができました。

しかし、時すでに遅し。厚生年金は70歳まで加入できますが、お父様が転職したのは66歳。70歳まで4年間年金に加入できたとしても、過去の加入歴4年と合算しても年金受給に必要な10年をぎりぎり満たせなかったのです。

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救済措置は用意されていたが……

しかし、お父様のような状況の人にもまだ救済措置はあります。70歳を過ぎても会社勤めをする場合ですが、年金受給資格期間を満たすまで厚生年金に加入できる「高齢任意加入」という制度を使うことができるのです。

この制度を使うには、本人が年金事務所に高齢任意加入の申出書を提出する必要がありますが、お父様はこの制度の存在を全く知らず手続きをしていませんでした。結果、無年金となり定年退職により収入がなくなったため、子どもに頼り、一緒に暮らすしか方法がなくなってしまったのです。

●実父の貯金は300万円。年金はやはり“なくてはならないお金”だった……。老後資金を作る必要性とともに、続きは後編で解説します。