
中国は世界2位の経済規模と世界一の人口を持つ大国であり、巨大な市場を目指し多くの日本企業が進出しています。経済産業省「海外事業活動基本調査(2020年度実績)」によると日本企業が中国に設立した現地法人は7486社に上り、国・地域別で最多となりました。
【海外現地法人の数TOP3】
1.中国:7486社(香港1183社を含む)
2.アメリカ:3008社
3.タイ:2362社
出所:経済産業省 海外事業活動基本調査(2020年度実績)
しかし中国には特有の「チャイナリスク」があるといわれており、中国に進出する企業はしばしば経営危機に見舞われます。2015年には上場企業の「江守グループホールディングス」が追い込まれました。
5月31日は江守グループホールディングスの上場廃止日です。破綻の経緯とチャイナリスクが顕在化した6つのケース、そして中国売上高の割合が大きい企業について学びましょう。
チャイナリスクで上場企業が破綻
江守グループホールディングスは福井県の老舗企業でした。1906年創業の「江守薬店」を起源にもち、工業薬品のほか電子部品などを扱う商社として規模を拡大させます。2004年にはジャスダックに上場し、2006年に東証1部に指定替えを果たしました。
江守グループホールディングスは1996年に上海に現地法人を設立し、中国を中心に売り上げを伸ばします。2014年3月期では連結売上高2089億円のうち69%を中国が占めるようになっていました。
しかし2015年3月期、江守グループホールディングスの中国事業に転機が訪れます。中国経済の低迷や金融引き締めなどの影響を受け、一部の売掛金(※1)の回収が難しい状況となったのです。第3四半期には462億円を超える貸倒引当金(※2)を計上し、234億円の大幅な債務超過に陥りました。
※1.売掛金(うりかけきん):まだ支払いを受けていない売り上げ
※2.貸倒引当金(かしだおれひきあてきん):資金の回収不能が懸念される金額
手元資金に対して1年以内に返済期日が到来する負債が大きいことから、江守グループホールディングスは2015年4月30日に民事再生法の適用を申請し経営破綻します。証券取引所は江守グループホールディングスを同年5月31日に上場廃止としました。
江守グループホールディングスが陥ったような中国に関連する事業上の危機を一般に「チャイナリスク」といいます。東京商工リサーチによると、チャイナリスクによる倒産件数は2014年で46件、2015年に76件となりました。
【チャイナリスクによる倒産件数(負債総額)】
・2014年:46件(203億円)
・2015年:76件(2346億円)
・2016年:110件(718億円)
・2017年:54件(389億円)
・2018年:48件(232億円)
・2019年:36件(496億円)
出所:東京商工リサーチ 「チャイナリスク」関連倒産調査
(広告の後にも続きます)
保険会社もお手上げ? チャイナリスクが顕在化した6つのケース
これまでチャイナリスクはたびたび顕在化しています。主なケースを以下にまとめました。いずれも大きく報道されたため記憶に残っている出来事も多いでしょう。
【チャイナリスクが顕在化した6つのケース】
・2005年:小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝などに対する抗議デモ
・2010年:尖閣諸島の領有権を巡るデモ。中国はレアアースの対日輸出を禁止
・2012年:日本による尖閣諸島国有化に対するデモ。暴徒化し現地日系企業に被害
・2019年:香港民主化デモ。2020年に「香港国家安全維持法」が施行
・2020年:IT企業規制。アリババ集団など巨大IT企業がさまざまな規制を受ける
・2022年:新型コロナ封じ込めのため上海市などで強力なロックダウンが行われる
特に日本政府による尖閣諸島の国有化を契機に起きた2012年のデモは大規模なものとなります。デモ参加者の一部は暴徒化し、日系企業の工場や店舗が放火されるなどの被害が出ました。
これに困ったのは損害保険会社です。中国に進出する企業の多くは暴動などによる被害に対して保険をかけていましたが、一連の破壊行為で保険金の支払いが急増しました。大手損保会社はこれらの保険販売を一斉に停止します。
その後もさまざまな形でチャイナリスクは表面化してきました。近年では巨大IT規制や強力なロックダウンなど中国国内に向けたものが多く見られます。チャイナリスクによって破綻に追い込まれる企業は今後も出てくるかもしれません。