本連載では、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(以下、ステマ)」の運用基準について解説します。
前回は、「ステマ規制」が、景品表示法によって規制されることや、ステマ規制を避けるための七つのステップのフローチャートについてお伝えしました。
今回は、7つのステップについて、個別に解説します。
<ステマを割けるフローチャート>

<ステップ①「当該表示は事業者の表示に該当するか?」>
「当該表示は、事業者の表示に該当するか?」とは、そもそも当該表示が、「事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示」であるかを問うものです。代表的な例外として、自治体が税金で運営する行政サービスがあります。
例えば、自治体がインフルエンサーにコンテンツ制作を依頼し、費用を負担していたとしましょう。インフルエンサーが自治体からの依頼であることを明示していれば問題ありませんが、依頼を隠し、あたかも純然たる個人の感想としてコンテンツを投稿していた場合、一般消費者は「ステマではないか?」と疑問に思うでしょう。
しかし、このケースはステマ規制の対象外となります。ステマ規制は、自己の供給する商品又は役務の取引について、表示を行う事業者を規制するものです。自治体が税金により行う行政サービスは対象外となります。
また、雑誌などで特集される経営者のインタビュー記事なども、事業者の商品又は役務の取引に関する表示とは言えないことから、規制の対象外と考えられます。
<ステップ②:当該表示は外見上、第三者の表示に見えるか?>
「当該表示は、外見上、第三者の表示に見えるか?」とは、当該表示が事業者の表示であったとして、それが外見上、第三者の表示のように見えるかを問うものです。ステマ規制の対象となるのは、外見上第三者の表示のように見えるものが前提となります。よって、そもそも外見上、第三者の表示のように見えないものは規制対象外となります。
<ステップ③:当該表示は「広告」「PR」等、事業者の表示であることが明瞭であるか?>
「当該表示は、事業者の表示であることが明瞭であるか?」とは、当該表示が事業者の表示であり、外見上、第三者の表示のように見えるとき、当該表示が事業者の表示であることが明瞭であるかを問うものです。
一般消費者にとって、事業者の表示であることが明瞭となっていれば、規制対象外となります。例えば、①一般消費者にとって事業者の表示が明瞭である場合や、②一般消費者にとって事業者の表示が明瞭である又は社会通念上明らかである場合です。運用基準では以下のようにまとめられています。
<一般消費者にとって事業者の表示が明瞭である場合>
まず、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言による表示を行う場合です。
ただし、これらの文言を使用していたとしても、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていると認められない場合もあります。
「A社から商品の提供を受けて投稿している」といったような文章による表示を行う場合も、事業者の表示であることが明瞭であると言えます。
<一般消費者にとって事業者の表示が明瞭である又は社会通念上明らかである場合>
以下のようなケースは、事業者の表示であることが社会通念上明らかであると言えます。
① 放送におけるCMのように広告と番組が切り離されている表示を行う場合
② 事業者の協力を得て制作される番組放送や映画などにおいて当該事業者の名称などをエンドロールなどを通じて表示する場合
③ 新聞の広告欄のように「広告」などと記載されている表示を行う場合
④ 商品又は役務の紹介自体が目的である雑誌その他の出版物における表示を行う場合
⑤ 事業者自身のウェブサイト(例えば、特定の商品又は役務を特集するなど、期間限定で一般消費者に表示されるウェブサイトも含む)における表示を行う場合
ただし、事業者自身のウェブサイトであっても、ウェブサイト上のページにおいて、当該事業者の表示ではないと一般消費者に誤認されるおそれがあるような場合は、事業者の表示であることを明確にする必要があります。
例えば、ウェブサイト上で、専門家や一般消費者等の第三者の客観的な意見として表示をしているように見えるもので、実際には、事業者が当該第三者に依頼・指示をして特定の内容の表示をさせた場合がそれに当たります。そもそも事業者が作成し、第三者に何らの依頼すらしていない場合も、それに該当します。
事業者が第三者に依頼や指示をして、ある内容の表示をさせた場合、例えば「弊社から〇〇先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。」といった表示をすることが考えられます。
消費者にとって事業者の表示であることが社会通念上明らかなのは、以下の場合も当てはまります。
⑥ 事業者自身のSNSのアカウントを通じた表示を行う場合
⑦ 社会的な立場・職業(例えば、観光大使)など、一般消費者にとって事業者の依頼を受けて当該事業者の表示を行うことが社会通念上明らかな者を通じて、当該事業者が表示を行う場合
一方で、一般消費者にとって事業者の表示が明瞭でない場合、当該表示の主体者によって基準が分かれることになり、それを判断するのが次のステップ④です。
<ステップ④:当該表示は ア)自社発信型か、イ)第三者発信型か?>
表示が事業者の表示であり、それが外見上、第三者の表示のように見えるにも関わらず、事業者の表示であることが明瞭となっていないケースは、次の二つに分けられます。
一つ目は、事業者が自ら表示しているにも関わらず、第三者を装って肯定的な意見などを掲載するなりすまし型です。例えば、事業者自身が匿名で体験レビューをブログなどに掲載するケースが考えられます。
もう一つは、事業者が第三者に金銭を支払ったり、その他の経済利益を提供して表示させたりしているにも関わらず、その事実を隠す利益提供秘匿型です。有名ブロガーが報酬を得ていることを明示せずに、特定の企業や製品について高い評価を行うケースなどがあります。
「なりすまし型」と「利益提供秘匿型」は、それぞれ「自社発信型」と「第三者発信型」とし、次のステップで、それぞれ解説します。
<ステップ⑤:【自社発信型】表示主体が販売促進に必要とされる地位による者であるか?>
「表示主体が販売促進が必要とされる地位による者であるか?」とは、表示主体が、商品又は役務の販売を促進することが必要とされる地位や立場にある者であるかを問うものです。例えば、販売や開発に関わる役員や管理職、担当チームの一員などが、それに当たります。
そのような立場にない者で、例えば人事部や総務部に所属する者が、当該商品又は役務の販売を促進する目的ではなく、当該商品又は役務に関して行う表示については規制対象外となります。
一方で、当該表示が事業者の表示であり、それが外見上、第三者の表示のように見えるにも関わらず、事業者の表示であることが明瞭となっておらず、表示主体が販売促進に関わる地位のある者であった場合、ステマに該当することになります。
商品又は役務の認知向上のための表示だけでなく、競合他社の製品を誹謗中傷するような表示も規制されることが運用基準で示されています。
当該商品又は役務の販売を促進するための表示(例えば、商品又は役務の画像や文章を投稿し一般消費者の当該商品又は役務の認知を向上させようとする表示、自社製品と競合する他社の製品を誹謗中傷し、自社製品の品質・性能の優良さについて言及する表示を行う場合(他の者に指示をして表示を行わせる場合を含む。)。
(つづく)