​​バーチャルスニーカー「AirSmokeZero(エアスモークゼロ)」や3Dアバター「MetaSamurai」など、国内外から注目を集めるNFTコレクションを次々と発表してきた国内最大級のデジタルファッションレーベル「1BLOCK」を運営する1SEC。​ ​代表を務める宮地洋州氏に、3DCGを軸にした事業へ取り組む理由や、来るべきメタバース時代の未来について話を伺った。​ 

3DCGはクリエーターのアイデンティティーを拡張する​ 

​​──1SECがいち早く3DCGのテクノロジーに着目し、バーチャルヒューマンの開発を始めたのはどんな経緯があったのでしょうか?​ 

​​メタバースという言葉がバズワードになる前から北米の最新トレンドをキャッチアップしており、そのなかで「GENIES」というプラットフォームで、ジャスティン・ビーバーなどの著名人がアバターを作成していたことに注目していました。​ 以前はYouTuberプロダクションや、インフルエンサーを活用したSNSマーケティングなどを行う会社を経営していましたが、その頃から「いずれバーチャルネーティブの世界が必ずやってくる」と考えていたんです。​ 

​​メディアのパラダイムシフトとしては、SNSが台頭したことで、クリエーターやアーティストが自らコンテンツを発信し、独自の経済圏やファンコミュニティーを形成できる「個の時代」が到来しました。​ 

バーチャルスペースでも同じ現象が起きると仮説を持っていました。こうした価値創造を行うクリエーターが3DCGを使い、バーチャルアバターやデジタルファッションを開発してビジネスにする流れがくる​​と感じていたんですね。​ 「3DCGテクノロジーはクリエーターのアイデンティティーを拡張する」ものだと捉えると、マーケットサイズの発展性や将来性におけるオポチュニティーは想像以上にあると思っていました。​ 

​​まるで映画「レディ・プレイヤー1」のようなバーチャルワールドが確立されれば、個の力を今よりもエンパワーメントしていける。​ そんな思いから、3DCGテクノロジーにアンテナを張っていたんです。​ 

​​──バーチャルヒューマンの開発に着手した背景について教えてください。​ 

2018年当時、3DCGテクノロジーを使う上で再現性の難易度が最も高かったのがバーチャルヒューマンでした。​ ​2次元のキャラクターよりもリアルな人間のCGは、一番厳しく見られるというか、高いクオリティーが求められると思っていたんです。なので、まずは3DCGをフルで活用し、試行錯誤していくなかで誕生したのが日本初の男性バーチャルヒューマン「Liam Nikuro」でした。​

 ​​フォトリアルなアバターになることは、将来的なメタバース普及の文脈で鍵になると感じていました。まずは一番難しい領域からチャレンジしていくという流れから、バーチャルヒューマンの企画、開発に着手したのです。​ 

3DCGとWeb3の親和性はすごく高い​ 


​​<撮影/古田島大介>​ 

​​──その後、ブロックチェーン領域にも事業を拡大していくわけですが、3DCGとWeb3にどのような親和性を見出し、本格的に取り組み始めたのでしょうか?​ 

​​バーチャルテクノロジーと並行し、ブロックチェーンも北米で最新動向をキャッチアップしていました。​ 

​​こうしたなかでNFTの隆盛が起こり、Web3市場が大きなムーブメントになっていくと感じたので、初期はブロックチェーン技術を用いた開発に強みを持つdouble jump.tokyoとの協業を行い、私たちの3DCGテクノロジーとブロックチェーンを掛け合わせたNFTコンテンツを生み出す体制を整えたんです。その後、更なるスピードアップを狙うためにブロックチェーン技術もインハウス体制で整備していきました。​ 

​​メタバースのようなバーチャルワールドが浸透してくれば、必然的にクリエーターが作るデジタルグッズやデジタルファッションの需要が高まってくるのではと予測していたんです。​ ​こうした未来を考えると、3DCGとWeb3の相性はすごくいいと感じましたね。​ 

​​2021年4月に発売した日本初のバーチャルスニーカーNFT「AIR SMOKE 1」は、5イーサ(当時価格約140万円)で即完売するくらいの反響でした。これこそ、3DCGがもたらすクリエーティブの可能性を広げることができた事例だと考えています。​ 

​​直近では、世界的なパリコレブランドとして知られる「ANREALAGE(アンリアレイジ)」とコラボレーションした「AIR SMOKE ZERO」を発売しました。3DCGを用いたデジタルファッションだからこそ、デザイナーの森永(邦彦)さんが持つクリエーティビティーの拡張ができ、新たな表現の可能性や価値を生み出せたわけです。​ 

​​フィジカルでは出せない、バーチャルならではの表現は、クリエーターやアーティストの創造力をかき立て、新たなインスピレーションの源泉になる。そう感じています。​ 

MetaSamuraiに「I got your back」という思想を宿すワケと、コミュニティーとのカルチャー共創​ 

​​──2022年6月に始動したNFTプロジェクト「MetaSamurai」は、著名IPやブランドとのコラボを次々と発表し、累計取引高は​​約5億円を​​突破しています。なぜ、短期間で急成長できたのでしょうか。​ 

​​大前提として、NFTプロジェクトの成功には「コミュニティー」こそが重要だと思っています。​ ​我々でいえば、コミュニティーに関わってくれる人たちのことを「1BG(1BLOCK GANG)」と呼んでいるんですが、NFTという手段を通じて、新しいカルチャーやムーブメントを作っていく同志だと考えています。​ 

​​エンタメやファッション、音楽、アートなど、あらゆるジャンルがクロスオーバーする「ミックスカルチャー」を作っていくには、唯一無二のコミュニティーの形成が必要不可欠です。​ ​​1BGには、我々の目指す世界観やビジョンに共感してくれた各界のクリエーターやアントレプレナー、プロデューサー、熱狂的なファンなど、さまざまな属性の人たちが集まっています。​ 

​​現在展開するNFTコレクションのホルダーは3700人、Discordのコミュニティーに参加する人数は1万人以上です。「NFTを手段として考え、その先のカルチャー共創」を常に意識しているからこそ、大きく飛躍できていると考えています。​ 

​​──「I got your back」という思想を宿して展開しているのも、非常に興味深いと感じています。​ 

​​カルチャーを作るときに大事になってくるのが思想(フィロソフィー)なんです。​ ​​今なお多くの人から支持されるストリートカルチャーやハイブランドには、それぞれの歴史やストーリーがあり、そこには思想が宿っています。​ 

​​MetaSamuraiのキャラクターはワンちゃんがベースなのですが「忠犬ハチ公」の物語から着想を得ました。このNFTを持つことによってホルダーが“主人”となり、お互いが背中を支え合う存在になるという意味づけから、「I got your back」という思想が生まれています。​ 

全てのカルチャーがひとつに集約した「独自経済圏とエンターテインメント」を作りたい​ 

​​──メタバースプロジェクト「1BLOCK VERSE」とは具体的にどのようなものを描いているのでしょうか。​ 

​​これまではIPやブランド、クリエーターなどジャンルを超えてさまざまなコラボを行ってきましたが、最終的には全てのカルチャーがひとつに集約してくる世界線を構築する予定です。​ 

​​メタバース上にエンターテインメントスペースができるというか、あらゆるカルチャーが交錯し、化学反応が生まれ、1BLOCK VERSEのエコシステムが構築される。コミュニティーに大きなインセンティブを還元できるようなワクワクするスペースで、我々が運営しているすべてのアセットがさらに拡張していくととらえています。

そこではDAO(分散型自律組織)で共創されたIPも誕生します。まだ全貌は明かせませんが、新たなエンターテインメントの形が構築される世界なんです。​ 

また、メタバースにとどまらずフィジカルでも、コミュニティーを優遇したイベントを開催予定です。​ ​フィジカルもカルチャーの一要素として非常に重要です。デジタルだけで完結せずにバーティカルな展開も見据えながら、ひとつひとつ形にしていければと思います。​ 

​​──Web3のマスアダプション(一般大衆による受け入れ)について、何か感じていることはありますか?​ 

​​現状はまだ、キャズムを超えられていないと思っています。クリプトネーティブ層以外の一般の人がWeb3に入ってくる際のハードルの高さやセキュリティーへの懸念が払しょくできていないと感じていますね。​ 

​​コミュニティーと共創しているMetaSamuraiは既存の人気IPやブランドとコラボしており、マスへの普及に貢献できていると自負しています。個人的にはそもそも、Web2とかWeb3とか区別することが微妙だと感じているんですが、Web3スペースにより多くの人が自然と入っていけるような施策を引き続き実施していければ。そうしていく中で、自然と浸透していくと考えています。​ 

​​「ミックスカルチャー戦略」で新たなデジタルファッションカルチャーを生み出す​ 


<撮影/古田島大介>​ 

​​──今後の展望についてお聞かせください。​ 

​​我々が目指す世界を実現するために「ミックスカルチャー戦略」を掲げています。​ ​これはInstagramやYouTube、TikTokなどのSNSが発展し、個の台頭によってもたらされた「1 to N」の概念よりも、多種多様なカルチャーのバックボーンを持った人が100人集まって生まれる「100 to 100」のアイデアなどで共創した方が、今までにないような面白いものが生み出されるという考えです。​ 

​​クリエーターエコノミーが注目されていますが、本当の意味で経済圏が成り立ち、エコシステムが拡大していくためには、先述したコミュニティーが大切です。​ ​今後もデジタルファッションカルチャーを多くの人に楽しんでもらえるように、尽力していきたいと思っています。​