ケアマネジャーの面談業務時間、7割削減に成功! KDDI/NICT/NEC等が高齢者向け対話AIを開発、介護モニタリング実証実験

高齢者の社会からの孤立やコミュニケーションの不足による健康状態悪化のリスクが社会課題となっており、高齢者のケア・介護領域におけるきめ細やかな対応の需要が増加するなかで、ケアマネジャーの業務を効率化しつつ質を高める具体策が求められている。

このような状況の中、KDDI株式会社、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、NECソリューションイノベータ株式会社は、株式会社日本総合研究所の協力を得て2022年6月28日から2023年1月28日まで、内閣府SIP第2期に採択され研究開発している高齢者向け対話AIシステムを活用した介護モニタリングの実証実験を実施した(研究代表はKDDI)。

同実証で使用したマルチモーダル音声対話システム(Multimodal Interactive Care SUpport System/ MICSUS)は、3社が日本総研の協力を得て開発したもので、介護の専門家の知見を対話AIシステムに取り込んでおり、対話を通じて高齢者の健康状態や生活状況の変化の情報収集を行える。

実証実験の様子


介護モニタリングと端末「MICSUS」

介護モニタリングとは、ケアマネジャーが高齢者に直接会って、健康状態・生活習慣の変化を把握し、現在のケアプランが適切かどうか見直し、改善を行っていく業務だ。ケアマネジャーは1人あたり約33名の高齢者を担当しているが、在宅の要介護高齢者に対する原則月1回以上の介護モニタリングが義務付けされており、ケアマネジャー業務全体の4分の1を占めている。同実証では、マルチモーダル対話AIシステム(MICSUS)を搭載したぬいぐるみ型の専用端末およびスマートフォンを活用することで、介護モニタリングにおいて高齢者の健康状態や生活状況の変化の情報を収集するための面談とその記録業務に要する時間を約7割削減することに成功した。

MICSUSについて
○ 大量のWeb文書(350GB)と同プロジェクトで構築した300万件の高品質な言語資源データで大規模言語モデルを学習させ、ユーザー発話の意味解釈を高度化し、遠まわしなユーザー発話にも対応可能な自然言語処理を実現。また、自然言語処理の軽量化にも成功し、深層学習用プロセッサ1枚(NVIDIA V100)で5,000名のユーザーとの同時対話に対応可能だ。画像や音声のマルチモーダルなセンシング情報(表情・音韻的特徴・うなずき)を総合的に考慮し、感情の表出が認められてから0.1秒以内にユーザーの感情を推定する。

○ MICSUSが聞き取った内容は、ツールを用いて時間場所を問わず簡易に確認・修正可能なうえ、ケアマネジャーが把握したい情報が盛り込まれており、モニタリング業務の作業効率向上が見込める。

○ モニタリングのための質問とWeb情報やニュース記事を基にした雑談とをシームレスに切り替える。雑談では、高齢者の応答内容に関して新規情報を含んだ応答を返すことで高齢者の関心を引きつけ、飽きずに継続利用してもらうことでコミュニケーション不足の解消に寄与することが期待できる。

○ 基本ケア(疾患や状態によらず、共通して重視すべき事項)に基づいた対話が可能なため、ケアマネジャーのモニタリング用途だけでなく、高齢者の見守りなど広い用途にも応用可能。

○ MICSUSにより、ひっ迫するケアマネジャーの業務負荷軽減、健康状態悪化のリスクのあるコミュニケーション不足の解消の一助となる事で、将来の介護需要の増加を抑制することを目指す。

■【動画】内閣府SIP第2期 MICSUSの実証実験成果について


面談と記録の業務時間を平均7.0分から2.2分へ短縮

同実証では、サービス付き高齢者向け住宅などの施設や自宅で生活する高齢者179名が、MICSUSが組み込まれたぬいぐるみ型の専用端末やスマートフォンと計927回面談し、ケアマネジャーがMICSUSを通じて取得した高齢者の情報を確認用のツールアプリから確認することで、面談一回当たりの面談と記録に要する業務時間を平均7.0分から2.2分へ約7割短縮することに成功した。ケアマネジャーの作業負荷を軽減できるほか、実証実験に参加したケアマネジャーからは「高齢者にも無理なく使っていただける」というコメントをもらっている。また、MICSUSからの雑談の半数以上に笑顔や積極的な興味を示すなど、高齢者のコミュニケーション不足解消へ寄与することを示唆する結果も得られた。

同実証で使用した端末

なお、MICSUSが高齢者へ質問し、高齢者が回答するという対話を通じて、高齢者の健康状態や生活習慣を適切(約93%の精度)に収集し、高齢者の発話に対して適切(約93%の精度)に応答可能なことも確認できている。

対話AIプラットフォームの事業化を目指す

研究代表であるKDDIは、NICT、NECソリューションイノベータ、日本総研と協力して、同技術の社会実装に向け、さまざまなパートナーとの共同実証を実施していき、AIテクノロジーを活用したコミュニケーション手法による新しいデジタル体験を提案し、一人ひとりに最適なサービスの提供やデジタルデバイド解消など、社会に貢献する事業の創造に取り組み、対話AIプラットフォームの事業化を目指すと述べている。また、研究分担者であるNICTは、さまざまな社会課題の解決と回避に向け、言語や音声の高度かつ高精度な意味的処理の実現を目指して研究開発を行い、KDDIをはじめとするさまざまな企業、組織に技術を提供していくとのことだ。