今回の研究の概要。筋弛緩薬投与下で人工呼吸管理のもと低酸素血症を人為的に誘発したブタに、O2 -PFD(酸素化した液体パーフルオロカーボン)を投与。その後、30分の腸管内貯留の後、液体を腸管内より回収。下段は、各血中パラメータの移行結果を模試的に示したグラフ。PaO2: 動脈血酸素分圧、SaO2:動脈血酸素飽和度、SvO2:混合静脈血酸素飽和度、PaCO2: 動脈血二酸化炭素分圧、SpvO2:門脈血酸素飽和度、SivcO2: 下
大静脈血酸素飽和度(画像:名古屋大学の報道発表資料より)

 名古屋大学、東京医科歯科大学などは13日、ブタを使った動物実験で腸において体内の換気に成功したと発表した。血液中の酸素濃度の上昇が確認されると共に、二酸化炭素濃度の低下が確認された。新型コロナなどによって引き起こされる呼吸不全に対する、全く新しい呼吸補助療法の開発に繋がる可能性があるという。

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■これまでの呼吸補助療法の問題点

 呼吸不全が重症化した場合、人工呼吸管理や体外式膜型人工肺(ECMO)などによる呼吸補助療法がおこなわれる。だがこれらの呼吸補助療法には、デメリットもある。例えば、自分の肺が傷害されたり、他の感染症を合併したりする危険性だ。

 さらにこれらの呼吸補助療法には、高度な医療機器とスタッフが必要になるために、パンデミック時などには、救えるはずの命が救えなくなってしまう可能性があることも記憶に新しい。

 そこで安全性が高く、かつ、患者の体への負担も少なく、運用も簡便な新しい呼吸補助療法の開発が期待されている。

 今回の研究グループによる研究成果は、このような要請に応えるものだ。

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■ブタで腸における換気に成功

 研究グループは今回、ブタを使って動物実験をおこなった。ブタはマウスなどよりも大型でサイズがより人間に近い。

 研究グループは、低酸素状態にしたブタの腸に直腸カテーテルを使い、酸素を含ませたパーフルオロデカリン(PFD)を注入。その後、血中酸素濃度と二酸化濃度を測定した結果、血中酸素濃度の上昇と血中二酸化濃度の低下を確認した。すなわち、腸における換気が確認されたのだ。さらに重篤な副作用は確認されなかった。

 なおPFDとは、炭素とフッ素のみからなる化学物質。眼科の手術などで使われ、酸素がよく溶ける。

 研究グループによれば、医学史上類を見ない腸換気法の大型動物における有効性・安全性が確認されたという。

 研究グループでは現在、EVAセラピューティクス、丸石製薬などと共に臨床試験を進めている。パンデミックのような状況や、ECMOなどによる本格的な呼吸補助療法が間に合わない場合の時間稼ぎなどとして、臨床応用が期待されるという。