「ひとつの職場で長続きしない」
「体調が安定せず働き続ける自信がない」

このように、障がい者雇用を取り巻く現状には、さまざまな悩みがあります。多様性の向上や法定雇用率の引き上げによって障がい者雇用に注目が集まっている近年。しかし障がいのある人とそうでない人が一緒に働くには、トラブルや悩みがつきものです。今回は障がい者が抱える仕事の悩みとその解決策について、就労状況や障がい者雇用の実態から解説します。

障がい者雇用の現状

障がい者雇用の現状を、就労状況と雇用実態調査の側面から見ていきましょう。

障がい者の就労状況

厚生労働省が発表した「障害者の生活状況に関する調査結果」によると、抱える障がいによって就労状況が異なっています。知的障がい者の就業率は、一般の就業率と比較して20歳代がほぼ同水準。しかし30~40歳代では20~30%ほどと低下します。さらに50歳代後半からは急速に低下する傾向です。一方、身体障がい者の就業率は全体的に20~30%ほどと低い分布。一般の就業率と同水準とはいえない現状がわかります。

一方、雇用者数は増加傾向です。厚生労働省が発表した「令和3年障害者雇用状況の集計結果」によれば、民間企業、公的機関、独立行政法人とも雇用障がい者数は前年比で増加しています。国が障がい者雇用を推進している結果といえるでしょう。従業員が一定数以上の規模をもつ事業主には雇用障がい者の割合が定められています。これを法定雇用率といい、2018年から段階的に引き上げて2021年3月には2.3%に義務付けられました。法定雇用率の引き上げを受けて、雇用障がい者数は増加傾向です。

雇用者数が増加する一方で、抱える障がいや年齢によって就業率にばらつきが見られます。広く一般の就業率と同程度とはいえない状況が、現代の障がい者就労状況といえるでしょう。

障がい者雇用の実態

企業も障がい者雇用に課題を感じている現状です。厚生労働省が発表した「平成30年度障害者雇用実態調査」を見ると、障がい者雇用の現場ではさまざまな配慮がされていることがわかります。障がい者雇用の実態として、職業別にみると身体障がい者は事務的職業が最も多く、知的障がい者は生産工程の職業、精神障がい者はサービス業、発達障がい者は販売業が最も多い結果でした。障がいのタイプによって適した職業が異なるようです。

障がい者を雇用する際の課題としては、身体・知的・精神・発達障がい者とも「会社内に適当な仕事があるか」が最も多い結果です。雇用している障がい者への配慮事項として身体障がい者は「通院・服薬管理等雇用管理上の配慮」が最も多く、知的・精神・発達障がい者については「短時間勤務等勤務時間の配慮」が最も多い結果でした。職業や仕事によって障がい者が働く現場は異なり、抱える障がいにあわせて仕事の進め方も配慮されているとわかります。一方、それらにあわせた仕事を選定することに課題を抱える企業が多い傾向です。

障がいを抱える人への配慮という点では、健康経営で重視されるメンタルヘルス対策もひとつです。企業が経営理念に基づいて、従業員の健康維持・増進に取り組むことで業績や組織の価値向上につなげる健康経営。従業員の活力や生産性アップを目指して、心と体の両面から健康促進事業を展開しています。メンタルヘルス不調によって精神障害を引き起こす事例も少なくありません。すべての人が安心して働ける環境づくりが従業員の健康やモチベーションを維持します。メンタルヘルス不調を未然に防ぎ、障がいのある人にも配慮した取り組みは健康経営の手法であるとともに障がい者雇用に関わる配慮といえるでしょう。

障がい者が直面する仕事の悩み

障害者職業総合センターが実施した「障害のある求職者の実態調査」によると、抱える障がいによって直面する悩みは異なります。身体障がい者は「能力が発揮できる仕事への配置」に悩む人が最も多く、精神障がい者は「調子の悪いときに休みをとりやすくする」、知的障がい者と発達障がい者は「職場でのコミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置」が最も多い結果です。

ひと言に障がい者といっても、身体・精神・知的・発達のそれぞれで得意不得意や抱えるリスクは異なります。それは雇用の実態調査のなかで、職業に応じて雇用障がい者数やそのタイプが異なることや、配慮されている事項の違いからもわかるでしょう。ただしいずれも障がいを抱えながら持てる力を最大限に発揮して仕事に向き合おうとする姿勢は変わりません。障がいのタイプによって、障がいとの向き合い方は異なります。それぞれの向き合い方に寄り添った配慮が、障がい者雇用においては重要です。 

障がい者支援の施策3選

法定雇用率の引き上げをはじめ、国も障がい者雇用を支援しています。公的な機関によって障がい者の雇用に関する悩みをサポート。悩み別に相談先をご紹介しましょう。

1. ハローワーク

以下のような悩みはハローワークに相談してみてください。

  • 働きたいが何から始めてよいかわからない
  • 就職先を見つけたい
  • 就職にあたって受けられる支援を知りたい
  • 職業に必要な技能を身につけたい
  • 就職を前提に職場での実地訓練を受けたい
  • いまの職場になじめないので転職したい

雇用の安定を図るために国が運営するハローワーク。無料で就職相談や面接指導、職業研修などを受けられます。もちろん障がいを抱える人の就職・転職もサポート。さらに専門的なサポートが必要な人には、専門性の高い機関を紹介しています。就職・転職を考えたら、まずはハローワークに相談してみるとよいでしょう。

ハローワークでは有期雇用契約のもとで試行雇用を受けられる「障害者トライアル雇用」を紹介しています。事業主と障がいのある人との相互理解を深め、常用雇用への移行を目指す取り組みです。働く自信がない人も、まずはトライアル雇用を利用すれば就職後のミスマッチや不安感を軽減できるでしょう。

2. 地域障害者職業センター

以下のような悩みは地域障害者職業センターに相談しましょう。

  • 就職にあたって、自分にあった仕事や課題を知りたい
  • 課題の改善や適応力向上のために支援を受けたい
  • 不安事があるのでジョブコーチによる支援を受けたい
  • 職業に必要な技能を身につけたい

障がいのある人に専門的な職業リハビリテーションを提供する地域障害者職業センター。各都道府県に最低1か所設置されており、ハローワークや医療、福祉機関などと連携して就職を希望する障がい者のニーズにあわせたサービスを提供しています。

専門性の高い支援は、地域障害者職業センターの魅力のひとつ。厚生労働省の定める研修・試験を修了した障害者職業カウンセラーを設置しているほか、相談支援専門員やジョブコーチを配置。障がいのある人の適応力向上や課題解決はもちろん、円滑に就労できるよう職場内外の支援環境を整える役割も担います。

3. 障害者就業・生活支援センター

以下のような悩みは障害者就業・生活支援センターへの相談がおすすめです。

  • 生活に不安があり、就職などの悩みを相談したい
  • 職場での悩みを聞いてほしい
  • 日常生活の悩みを含めた仕事の相談をしたい

障がい者の雇用促進はもちろん、生活面のサポートを含めたサービスを提供するべく全国に配置されている障害者就業・生活支援センター。障がい者の職業生活における自立を図るため、雇用・保健・福祉・教育などの関係機関と連携して障がいのある人を支援しています。

就職や転職はもちろん、仕事の悩みや暮らしの相談など、幅広く対応。関係機関とも連携しているので、就職や生活に関する不安はまず障害者就業・生活支援センターに相談してみるとよいでしょう。

すべての人がともに働き続けるために

障がい者が抱える仕事の悩みとその解決策について、就労状況や障がい者雇用の実態から解説しました。多様性向上の動きや法定雇用率の引き上げにともなってますます注目の集まる障がい者雇用。障がいのある人とそうでない人が一緒に働くためには、お互いの配慮が大切です。当事者間での話し合いはもちろん、公的機関のサポートを受けてみるのもよいかもしれません。すべての人がともに働き続けるために工夫しながら、よりよいキャリアライフを築きましょう。