新型コロナウイルス感染症やグローバル化の揺れ戻しなど、現代はいまだかつてないほど、激しい変化がおきています。そのような時代の中で、30年先の未来まで想定していますか。企業が存続し続けるためには、価値を生み続ける未来予測が欠かせません。何が起こるかわからない現代において、未来社会を思い描く力や柔軟な発想力が必要です。

「未来における自社の方向性に悩んでいる」
「既存の価値観から脱出したい」
「これまでにない斬新なアイデアを生み出したい」

と悩んでいる方も多いことでしょう。そこで今回は、予測できない未来に活路を生み出す考え方である「SF思考」について解説します。

SF思考とは

SF思考とは、予測できない未来に活路を見出す考え方

SF思考(エスエフしこう)とは、SF的発想で行う新しい未来予測手法です。
SF思考は、「SFプロトタイピング」とも呼ばれています。SF思考(Science Fiction thinking)のSFは、サイエンス・フィクションの略語です。科学的な空想にもとづいたフィクションの総称で、SF小説・SF漫画・SF映画・SFアニメがあります。

SF思考は、イノベーションを創出するきっかけとなる

SF思考を簡単に説明すると、SF小説のように自由に想像をふくらました未来からイノベーションを生み出そうとする考え方です。

SFの持つさまざまな力を活用して、産業の活性化やイノベーション創出を目指す新しい考え方として注目されています。

例えば、携帯を生み出したきっかけとなったのが、SFストーリーです。SFストーリーは、科学技術をベースとしたフィクションですが、現在を予測したものがあります。

【SFに影響をうけた代表例】

  • ビデオ電話
  • ドローン
  • ロボット
  • 現代のような予測不可能な時代には、ビジネスの未来を描き、アイデアを形にする力が求められています。一見、ビジネスとは関係なさそうなSFが非常に関係深かったことがわかりましたか。
    もはやSF思考は世界のビジネスリーダーの常識となっているでしょう。
    【SFを重視している著名人】
    ジェフ・べゾスAmazon創設者Alexaに「スター・トレック」が影響イーロン・マスクTesla創業者1日最大10時間もSF小説を愛読ビル・ゲイツMicrosoft創業者「七人のイヴ」を絶賛マーク・ザッカーバーグFacebook創業者「エンダーのゲーム」「三体」を愛読スティーヴ・ジョブズApple創業者Siriに映画「2001年宇宙の旅」が影響野口聡一宇宙飛行士星新一ファンを公言山中伸弥ノーベル生理学・医学賞受賞者「宇宙英雄ローダン」シリーズを愛読
    参考:書籍「SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル」より抜粋

    これからは「ビジネス書を愛読して勉強を」ではなく、「SF小説を愛読して勉強しよう」と方向転換する時期かもしれません。
    日本ではSF小説や漫画は、サブカルチャーとして位置づけられています。そのため「本当にビジネスに結びつくだろうか」と疑問に感じる方もいるかもしれません。SF思考がビジネスの世界で注目されている理由を解説します。

    SF思考が注目される理由

    SF思考が注目される理由は、激しい時代変化と価値観の変容によるものです。そのためこれまでの常識にとらわれることなく、新しい思考法でビジネスを生み出す方法としてSF思考に注目が集まっています。SF思考が注目される理由を詳しく解説します。

    【理由1】SF思考がVUCA時代の希望となること

    未来を予測しにくい時代(VUCA時代)に変化していることが、理由のひとつです。VUCA時代とは、先行きの見えない社会状況のことを意味しています。VUCA(ブーカ)とは、次の頭文字をとった造語です。

    • V:変動性(Volatility)
    • U:不確実性(Uncertainty)
    • C:複雑性(Complexity
    • A:曖昧性(Ambiguity)

    VUCA時代の背景にあるのは、次のような理由のグローバル化です。

    • 情報をつなぐインターネット
    • 人の往来をつなぐ交通網
    • モノの流れをつなぐ物流網

    新型コロナウイルスのように、世界でリスクを共有するリスク社会はさらに加速するでしょう。新しい技術をビジネスに導入すれば、新たなリスク対策も必要です。
    そこで、リスク社会について考え続けてきたSFは、ビジネスの世界でも注目されています。

    【理由2】企業は新たな価値創造が求められるようになったこと

    近年、ビジネスの世界ではSDGs健康経営など、社会的な価値の重要性が注目されています。
    ※SDGsとは、地球上のさまざまな問題を解決するために、2030年までに世界各国で達成しようと決めた17の目標のことです。
    ※健康経営とは、従業員の健康管理に企業が積極的に関わり生産性を高めていく経営手法です。

    「その商品は環境によい影響を与えるのか」

    「社会の問題を解決できるのか?」
     「企業理念に共感できるか?」

     などが厳しく評価される時代です。
    さまざまなモノやサービスがあふれている中で、消費者は古い価値観の企業を選ばない時代に変わりつつあります。
    企業の社会貢献活動が、まわりまわって長期的な利潤につながるでしょう。
    過去の成功体験に縛られたままでいると、未来社会では生き残れないでしょう。未来社会にあわせ価値観をアップデートし、自社の存在意義を示す必要があります。

    上記2つの理由からSF思考に注目が集まっています。 
    これまでのビジネスとの考え方とはどう違うかと疑問に思う方もいるでしょう。次にビジネスの思考法との違いも見ていきましょう。

    SF思考とビジネスで使われる思考法の違い

    SF思考は、未来の社会や人間に視点をおき、時間軸が長い(10~50年)ことが特徴です。不確実性を重視するため、挑戦的なアイデアの生み出しになりますが、納得性が乏しい傾向があります。ビジネスで活用するには、次の3つの思考法を目的に応じてうまく組み合わせていくことが重要です。

    特にビジネスシーンにおいて使われることが多い思考法3つと比較しています。

  • ユーザー起点で未来を考える【デザインシンキング】
  • あり得る複数の未来に備える【シナリオプランニング】
  • 可能性の高い未来を予測する【マクロトレンド分析】
  • SF思考の特徴を理解するためにも、この3つの思考法との違いを整理してみましょう。
    SF思考デザインシンキングシナリオプランニングマクロトレンド分析時間軸10~50年後~10年後~20年後~10年後

    対象

    人間中心人間中心社会中心社会中心(未来のユーザーを洞察)(現在のユーザーを洞察)(社会構造や仕組みを重視)(人口動態やデータを重視)視点遠い未来と広い社会いまを起点をしている現在のトレンドの延長線上現在のデータの延長線上

    使い分け

    新産業

    プロダクト開発
    短期的な事業の将来予測
    将来市場の予測

    研究開発や研究技術街づくりや制度参考:書籍「SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル」をもとに筆者が作成

    SF思考は、遠い未来を考えること広い世界を考えることも特徴です。30~50年先を考えようとすれば、関連分野も含む広い範囲で社会全体像を想像する必要があります。
    例えば、下記などです。

    • 不動産や建設業の未来を考える
    • 30年後の住環境を考える
    • ワークスタイルの変化
    • 家族構成やライフスタイルの変化
    • 空飛ぶ車は実現しているだろうか
    • 社会制度や他産業の変化を視野に入れる

    SF思想を活用して、企業の存在価値を高める3つの方法

    「そうはいっても、SF思考とビジネスをつなげることができるのだろうか」と思うかもしれません。SF思考を活用するには、SF作家がストーリーをつくる3つの方法を参考にします。
    三段階の未来予測をする「未来ストーリーづくり」の方法

  • 斜め上の未来を想像する
  • 未来に存在する課題を想像する
  • 未来の解決方法を想像する
  • 1.斜め上の未来を想像する

     例えば、「2040年の未来の社会像を想像して、ビジネスプランを考えましょう」などテーマを決めてます。いまの現実は忘れて「こうしたい」と思える未来を描き、自由に妄想することが大切です。

    とはいっても、斜め上の未来を想像するのは簡単ではないでしょう。おすすめしたいのが、次の方法です。

    • 人のこだわりや身近な悩みを未来社会につなげる
    • いまある言葉を、おかしな組み合わせに組み合わせて新しい言葉をつくる
    • 「もし、○○があったら……」「もし、○○がなかったら……」と妄想する
    • あるひとつの技術が進歩した世界をイメージする
    • いまと価値観やライフスタイルの違う人物像を生み出す

    2.未来に存在する課題を想像する

    想像した未来では、どんな人がどんな暮らし方をしていて、ライフスタイルや働き方がどんな風に変わったか想像を膨らますことがポイントです。

    • さまざまな立場の視点から未来社会システムを考える
    • 未来世界に現れる新たな課題と構造的なトラブルを検討する

    3.課題の解決方法を想像する

    VUCAの時代でありリスク社会であることは、現代社会も未来社会も同じです。技術が進歩すれば、変化はさらに激しくなり、新しいトラブルも増えるでしょう。その未来から逆算して、目標や計画を立て、課題の解決方法を想像することが大切です。

    • 発想の飛躍のために知識を集める
    • 発想の完成を目標にせず、拡張や展開を考える

    SF思考による「未来ストーリーづくり」は、企業内のマネジメントにも活用できます。

    ①部署や個人の目標を設定するとき

    SF思考によって、「自分たちがやっていることが最終的にどういう形で未来に影響するのか」という未来ビジョンを示すことです。目標に向かっていく「やらされ感」しかない仕事を「やりがいのある仕事」に変えることで、新たなスキルや経験の必要性に気づき、成長のチャンスも増えるきっかけとなるでしょう。個人目標の先には、会社全体のビジョンが見えているかが重要です。

    ②チームの団結力を高めたいとき

    未来ストーリーづくりがチームの気持ちをひとつにします。SF思考を使って未来ストーリーづくりを行うことは、チームビルディングの面でも効果を示します。

    • チームのメンバーそれぞれの夢を込められる
    • 異なる専門知識を持つメンバーが主観的に自由に意見を出し合い
    • 未来を自分ごと化する
    • メンバー間での意外な化学反応に結びつけやすい

    SF思考を実際ビジネスに生かすには、固定概念を捨て、未来に思いをはせる発想の転換が必要です。今の延長線上から考えると同じような発想になってしまいます。そこで、SF思考を活用し、現実離れした発想がイノベーションを創出につながる可能性を秘めています。

    SF思考をビジネスに活用するメリット

    では、SF思考を活用するメリットは、どんなことでしょうか。

    業界内での閉じた社会(タコツボ化)を解消できる

    SF思考では、遠い未来や広い世界を想像し、イノベーションを創出することが目的です。タコツボ化している状態では、イノベーションは難しいでしょう。タコツボ化とは、自分の殻に閉じこもって、他の業界に関心がなくなってしまうことです。タコツボ化によって、思考の固定化や最小化意識に陥ります。SF思考を取り入れることは、タコツボ化の解消につながるでしょう。

    2.異分野の人たちが協働できること

    SF思考では、未来予測を裏付けるために、さまざまな専門知識を持った人たちが協働することが必要です。また社内だけにとどまらず、外部の人とかかわりをもつことで新たなひらめきや発想のきっかけとなるでしょう。多様な分野をつなぐ手法としても、SF思考は期待されています。

    3.自由な発想が期待できる

    日本はどうしても遠慮してしまう文化があります。SF思考は、「フィクションだから」ということで意見がいいやすくなる面も期待できます。みんなで自由な発想を出し合うことにより、会社のビジョンをつくることにも効果を発揮するでしょう。

    SF思考をビジネスに積極的に活用しよう!

    今回は、SF思考について解説しました。

    SF思考は、自由に想像を膨らました未来発想からイノベーション創出し、企業価値を高めるために役立ちます。まずはSF小説や映画に触れてみて、社内外でのワークショップなどでSF思考を活用してはいかがでしょうか。