「病気で欠勤したら、有給休暇扱いになって給料が支払われた」「閑散期だからとシフトを減らされ、そのぶんを有給休暇扱いされていた」など、有給休暇を会社都合で勝手に使われた(消化された)経験はありませんか?

休みをとれないとストレスがたまったり体調を崩してしまったりするでしょう。有給休暇は法律によって定められた労働者の権利です。正しく権利を主張することが大切です。今回は有給休暇を取り巻く問題と健康経営について解説します。

有給休暇を勝手に使われるのは違法?

有給休暇を会社が勝手に消化するのは違法行為です。欠勤日を有給休暇扱いにする、本来ならば出勤日なのに有給休暇を入れる、会社の都合上休みにせざるをえない日を有給休暇にする、などはすべて法律で禁止されています。

労働基準法によれば、年次有給休暇を雇用関係上の使用者が一方的に指定することはできません。また年次有給休暇の取得義務として年5日が設けられていますが、最低限この5日間は時季指定を受けることなく、労働者が自由に請求できます。

有給休暇の取得は労働者が有する権利なので、権利の行使は権利者次第です。有給休暇を取得することはもちろん、取得しないという選択も可能です。よって会社が有給休暇の消化を強制するのは違法行為にあたります。労働者の同意なく有給休暇扱いで残日数を消化するのも違法です。気づいたら有給休暇が減っていたという事態を避けるため、取得日数や残日数を確認しておくとよいでしょう。

勝手に有給休暇を使われたときの対応策

有給休暇は労働者が自ら取得を決め、申請します。しかし以下のように有給休暇を会社都合で勝手に使われたという事例があります。

  • 病気で欠勤したら、有給休暇扱いになって給料が支払われていた
  • 閑散期だからとシフトを減らされた分が有給休暇扱いされていた
  • メンテナンス作業のため休業になったが、休業ぶんは有給休暇扱いで給料が支払われていた

有給休暇を会社都合で勝手に使われると、長期休暇や通院、子どもの用事などに備えて計画的にとっていた予定が崩れてしまうでしょう。また急な体調不良や事故・怪我などに備えられなくなってしまいます。望まないタイミングの休日は十分に活用できません。

取得した休日を有給休暇扱いされるばかりでなく、会社都合で付与された休日が有給休暇として処理されているのも違法行為です。メンテナンス作業にかかる休業は会社都合の休みとなります。会社の都合で休業となった場合、平均賃金の6割ぶんが保証されます。有給休暇は給料の全額が支払われますが残日数が減ってしまうため、会社都合の休業を有給休暇として処理するかどうかは労働者次第です。

勝手に有給休暇を使われた場合、「取得した休日は有給休暇ではない」「自分は有給休暇の取得を望んでいない」とはっきり伝えましょう。会社都合で有給休暇を使われる可能性があるときは、あらかじめ休暇取得時に有給休暇を使わないと意思表示するのも有効です。

あとから有給休暇を望んでいないと言っても、使用者から「黙っていたなら有給休暇として同意したも同然」と主張される恐れがあります。しっかりと意思表示することが大切です。また弁護士に依頼すれば弁護士名義の内容証明を送って違法性を主張できます。使用者との話し合いが滞った際には活用するとよいでしょう。

有給休暇の例外

有給休暇は基本的に労働者に取得希望が委ねられていますが、一部例外もあります。たとえば時季変更権を使えば、労働者が有給休暇を申請した時季が事業の運営を妨げるときに、使用者から変更を申し入れることが可能です。ただし時季変更権は限定的で、労働者が事業の運営に必要不可欠であり、代替要因の確保が難しいことが条件になります。つまり、いつでも有給休暇の取得日を変更したり会社都合で指定したりできる制度ではありません。

使用者が労働者に有給休暇を計画的に付与する計画年休という制度もあります。有給休暇を計画的に調整することで、労働者一人ひとりがしっかり休めるようにする制度です。閑散期や交代制での取得を推奨します。ただし計画年休については、あらかじめ労使協定で定めなければいけません。また年5日は労働者が自由に使える年休であるため、計画年休の指示を受けないことを確認しておきましょう。

年5日の有給休暇とは、取得率向上のために2019年4月から義務付けられた制度です。年10日以上有給を付与されている労働者は、最低限年5日は有給休暇を取得する必要があります。ただし5日を越える場合、時季変更権や計画年休などの制度が適用される場合もあるので、会社と相談する必要があるでしょう。

健康経営と有給休暇

経営理念に基づいて従業員の健康維持・増進に取り組む健康経営。従業員が健康で生き生きと働くことで生産性や組織価値の向上につなげるねらいです。この考え方から、心と体の両面を支える健康促進事業を展開しています。定期的な健康診断や健康相談の実施、ストレスチェックの導入はもちろん、働き方改革の推進やワーク・ライフ・バランスの見直しも健康経営の一環です。

経済産業省では2014年度から健康経営銘柄制度を設けて、健康経営に優れた企業を選定しています。定められた項目にしたがって、企業の健康経営の取り組みを評価。選定された企業は健康経営優良法人として表彰し、取り組みを見える化します。社会的に企業が評価され、組織価値の向上が期待できるでしょう。国も健康経営を推進しています。

有給休暇の現状

「令和3年 就労条件総合調査」によると、2020年の年次有給休暇平均取得率は56.6%。前年から0.3ポイント上昇して過去最高となりました。取得率を企業規模別にみると、従業員数1,000人以上の企業が60.8%、300~999人が56.3%、100~299人が55.2%、30~99人が51.2%となっています。企業規模が大きいほど有給休暇取得率は高い結果です。

有給休暇取得率が高い産業は、電気・ガス・熱供給・水道業が73.3%、情報通信業が65.1%、鉱業・採石業・砂利採取業が63.9%となっています。一方取得率が低い産業は教育・学習支援業が48.6%、複合サービス事業が47.7%、宿泊業・飲食サービス業が45.0%という結果です。サービス業を中心に有給休暇をとりづらい現状があります。

健康経営とワーク・ライフ・バランス

企業は従業員のワーク・ライフ・バランスを尊重する必要があります。ワーク・ライフ・バランスとは「仕事と生活の調和」の意味。プライベートが充実し仕事との両立がとれているからこそ、仕事へのモチベーションアップや生産性の向上が期待できます。適度な休暇と余暇が重要です。

ワーク・ライフ・バランスを見直す取り組みとして、有給休暇の取得率アップを掲げる企業もあります。健康経営の取り組みとしても注目されるワーク・ライフ・バランス。休暇をしっかりと取得することでストレスの軽減や自己の啓発活動にもつなげられます。価値観の変化や多様な働き方が認められつつある現代において、有給休暇の取得率アップはワーク・ライフ・バランスを実現する企業の指標ともいえるでしょう。

有給休暇は労働者の権利。正しく利用して健康的なキャリアライフを

有給休暇を取り巻く問題と健康経営について解説しました。

会社都合での強制的な有給取得は違法です。有給休暇は法律によって定められた労働者の権利で、労働者が自由に取得日を決められます。ただし日本の有給休暇取得率を見ると、依然として多くの労働者が有給休暇を取得できていないことがわかります。

また時季変更権や計画年休といった制度もあるので、有給休暇の取得には使用者と労働者があらかじめ相談する必要があるでしょう。ただし休暇や余暇時間は健康に暮らしたり生き生きと働いたりするために大切です。

正しく権利を主張して健康的なキャリアライフを送ってください。